新年恒例の福袋、どんなものが入っているのかと、ドキドキしながら開けるのは楽しいものだ。販売価格の何倍の中身が入っているかは、福袋の「お買い得度」を示す重要な尺度だが、「株価純資産倍率」(PBR)も、同じ考え方に基づいている。
このPBRを福袋に適用してみよう。5000円の福袋に2万円分の商品が入っていた場合、PBRは0.25倍(=5000円÷2万円)となり、中身が4万円なら0.125倍。反対に福袋の価格と同じ5000円分しか入っていない場合は1倍、2500円なら2倍となる。福袋の購入者にとっては、PBRが小さければ小さいほど福袋は割安、大きければ大きいほど割高となる。
PBRは、株価とその会社の資産を比較したもので、「株価÷1株当たりの純資産額」で算出される。福袋を会社とすると、1株当たりの純資産額は福袋の中身の金額、株価はその販売価格となるわけだ。純資産総額が5億円、発行されている株式数が10万株のA社の場合、1株当たりの純資産額は5000円(=5億円÷10万株)となる。もしA社をつぶして解散させた場合、株主には、純資産として残る1株当たり5000円が支払われる計算になる。
通常、会社という福袋では、PBRは1倍よりも大きくなる。PBRに反映されるのは、企業が保有している純資産だけ、その企業が生んでいる利益や、将来性などは含まれていない。したがって、PBRは1倍を上回り、2倍、3倍となる場合も少なくない。純資産だけに着目すれば割高に見えるが、健全な経営が行われている企業であれば、純資産以上の価値があることから、そこから生まれる利益も含めれば、お買い得になっている場合も多いのだ。
1株当たりの純資産額が5000円のA社だが、業績が好調で今後の株価上昇が期待できる場合には、株価が6000円、7000円と上昇、PBRも上昇していく。福袋の中身が今は5000円でも、その中に「金の卵を産む鶏」が入っていれば、もっと高い値段を出しても損はないという訳なのだ。
一方、PBRが1よりも小さい場合もある。福袋の中身(純資産額)の方が販売価格(株価)より高いことから、その株価は割安、つまり「お買い得」になっていると考えられる。
今、A社の株価が3000円だったとしよう。この場合、PBRは0.6倍(=3000円÷5000円)で、10万株をすべて買い占めるための投資額は3億円となる。しかし、A社の純資産額は5億円なので、会社を解体して資産を売却すれば5億円が手に入り、結果的に2億円の利益があがる計算となる。こうしたことから、PBRが1倍を切った企業は、企業買収ファンドの標的になることもあるのだ。
PBRが1倍を切る場合は、その企業の将来性が不安視されている場合が多い。業績が悪化すれば当然資産も減少、1株当たりの純資産額も減っていくと予想される。この場合は、PBRが現時点では1倍を切っていても、決してお買い得とは言えなくなる。人気の高級ブランド品の福袋が存在しないように、PBRが1倍を切る福袋となるのは、企業業績に何らかの不安を抱えている場合が多いのだ。
金融危機が深刻化する中、PBRが1倍を割り込む企業が急増している。トヨタ自動車の2008年3月末現在での1株当たり純資産額は3804円だったが、同年12月12日現在の株価は2760円。PBRは0.73倍でしかない。トヨタ自動車という世界的ブランドですら、お買い得の福袋になってしまっていることを、PBRは示しているのである。