CPは、返済に不安がないと考えられる優良企業のみに発行が許されているもので、支払いが滞った場合に備えた担保がない。会社の同僚や仲のよい友人などにお金を貸す場合、相手の素性が知れていることから、担保は求めず、金利もゼロか極めて低い水準となる。優良企業のみが発行できるCPも、同じような考えから無担保となっているのだ。
しかし、会社の同僚であってもお金を返してもらえないリスクは存在する。そこで、金額が大きい場合には「お金は貸すけれど、返済までその高級腕時計を預からせてもらうよ」と、担保を要求する場合がある。企業の場合も同様で、CPに担保が付けられることがある。これが「ABCP」だ。高級腕時計に相当する資産を担保にすることで信用力を高め、資金調達をより容易にしているというわけなのだ。
ABCPを最も活用しているのは、銀行などの金融機関だ。ABCPを発行する際に銀行が担保として差し出すのは、「貸出債権」、つまり銀行が融資先から受け取っている借用証書だ。銀行は融資を行う場合、原則として融資先から不動産などの担保を確保していることから、「貸出債権」を担保にCPを発行すれば、より信用力の高いABCPになる。
こうしたことから、欧米の金融機関は巨額のABCPを発行し、資金調達や投資を活発に行うようになった。さらにABCPの発行を目的に設立するSPC(special purpose company 特別目的会社)やSIV(structured investment vehicle)という子会社に債権を移すことで、保有する債権のスリム化というメリットを得ることもできるのだ。
これに加えて、一般の事業会社も「売掛債権」という将来回収される予定の販売代金を担保にしてABCPを発行するようになった。こうしたことからABCPの発行が急増し、アメリカではCP全体の発行残高の半分を占めるなど、ABCPは金融市場になくてはならない存在に成長した。
ところが、「サブプライムローン問題」に伴う信用不安の影響で、2007年8月、通常のCPはもちろん、ABCPの発行も困難な情勢に陥った。ABCPの担保の一部に、サブプライムローンに関連した証券や不動産などが含まれていたことから、「担保があっても、その担保では信用できない」とABCPの信用力が急低下、もともと担保のないCPと合わせて2兆2000億ドル(約250兆円)というCP市場全体が、機能不全を引き起こしたのだ。この時は、FRB(連邦準備制度理事会)が緊急資金供給を行ったことで乗り切ったものの、対応を誤ればパニックに陥るところだった。
日本では未発達のABCPだが、欧米ではなくてはならない資金調達の手段となった。金融機関や一般企業、さらには企業買収ファンドやヘッジファンドなども大いに活用しているだけに、機能不全に陥れば、世界経済全体が大混乱に陥りかねない重要な役割を担っているのである。