複数の材料を使うことで、単品に比べて価格が安定している「ミックスジュース」。これと同じ考え方に立っているのが「通貨バスケット制度」だ。
通貨をジュース、為替相場をその価格と考えよう。日本円の場合、ドルやユーロなど通貨ごとに自由に為替相場が決定される変動相場制が採用されている。ニンジンジュースのように「単品」での取引が行われているわけである。しかし、為替相場は激しく変動し、企業業績、そして景気全体にも大きな影響を与えることから、相場の安定が大きな課題となっている。
為替相場の変動を抑える方法の一つが、通貨バスケット制度。ドルやユーロなどの通貨を個別に取引するのではなく、これらを組み合わせた「バスケット通貨」を作る。ドルを50%、ユーロを30%、円を20%といった具合に、複数の通貨によって構成される「合成通貨」で、「かご」(バスケット)の中にいろいろな通貨を入れるというイメージから、こう呼ばれている。ドルや円などの「単品」ではなく、バスケット通貨という「ミックスジュース」の価格で為替相場を決定するのが、通貨バスケット制度である。
バスケット通貨の変動は相対的に小さくなる。ドルの為替相場が10%変動しても、ドルの構成比率が50%のバスケット通貨の場合、他の通貨に変動がなければ、変動幅は半分の5%にとどまる。ニンジンの値段が上がっても、オレンジなどの他の材料の価格が安定していれば、ミックスジュースの価格は大きく変わらないというわけだ。
通貨バスケット制度は変動相場制と固定相場制の中間に位置するもので、シンガポールなどのアジアの国々やロシアなど、多くの国で採用されている。
こうした中、固定相場制と通貨バスケット制の間で揺れ動いているのが中国だ。中国は2005年7月、それまでの固定相場制から、通貨バスケット制に移行すると発表した。人民元の対ドル相場は、中国政府(中国人民銀行)が決定した基準相場に「杭」(ペッグ)のように結び付ける「ドルペッグ制」という固定相場制が採用されてきた。しかし、その水準が市場実勢を無視し、自国の輸出が有利になるように安く設定されていると批判されてきたことから、「杭」の水準を市場実勢が反映される通貨バスケットに連動させることとしたのだ。ところが、金融危機が発生した08年7月以降、通貨バスケットの価格が大きく上昇したことから、ドル・ペッグ制に逆戻りしてしまう。そして、10年6月、改めて通貨バスケット制を採用すると発表したのだった。
相場安定に加えて、投機的な取引の標的になりにくいという利点もある通貨バスケット制度だが、構成する全通貨が動いてしまえば、価格変動は避けられない。また、通貨の構成比率が非公表の場合も多く、「ミックスジュースの中に何が入っていて、どうやって価格を決めているのか?」といった不透明感もつきまとう。こうしたことから、先進国はいずれも変動相場制を採用している。通貨バスケット制度というミックスジュースは、主力商品となっていないのが現状なのである。