「円高・円安」も、綱引きの戦況と考えることができる。外国為替相場は2つの通貨の交換比率であり、それぞれの通貨の力の大きさで水準が決定される。ドル・円相場の場合、「円組」と「ドル組」が綱引きを行い、目印である外国為替相場は「円組」の力が「ドル組」より強ければ「円高」(ドル安)、「円組」が劣勢なら「円安」(ドル高)となるというわけだ。
「円組」と「ドル組」それぞれの力の強さは、通貨に対する需要によって左右される。日本からの輸出が増えると、輸入代金として受け取ったドルを円に換える必要が出るため、「円組」の力が強まり、円高(ドル安)の圧力となる。一方、輸入が増えた場合には、代金支払いのためのドルが必要となることから、「ドル組」の力が強まって円安・ドル高へ向かう。
為替相場を動かす最大の要因は、ヘッジファンドに代表される投機マネーだ。投機マネーは綱引きの戦況をチェックし、強い方に味方して利益を上げようとする。日本経済に明るい材料が出ると、投機マネーは円買い・ドル売りに出る。アメリカの景気が悪化、相対的に日本経済が良くなると判断した場合も同様だが、反対に日本経済の先行きに不安が広がった場合は、一転して円売り・ドル買いに走る。「円組」が優勢と見れば、「円組」に飛び入り参加して綱を引き、形勢が不利になればすぐ見切りを付けて「ドル組」に寝返る。投機マネーは政治や国際情勢、金利の変動などにも敏感に反応、巨額の売買を実施する。これによって、綱引きの戦況が大きく変わり、円高になったり、円安になったりするのだ。
円高・円安は、経済活動にも大きな影響を及ぼす。円高になると輸出業者の経営が悪化する。ある企業が10万ドルの輸出代金を受け取った場合、1ドルが90円なら900万円だが、80円になれば800万円に目減りする。この損失が「為替差損」であり、円高が進むほど為替差損が拡大して経営を圧迫することになる。
しかし、円高になれば、輸入業者は有利になるし、海外旅行で安く買い物ができるので、一般消費者にもメリットが生まれる。自国通貨の値上がりは、その国の経済力が強いことの表れでもあり、本来は歓迎されるべきことなのだ。
ところが、日本は円高が大嫌いな国だ。日本経済を支えているのは輸出産業であり、円高はその業績を悪化させ、これが景気全体を悪化させるとの不安から、株価も連鎖的に下落する。
このため、円高になると、政府が「円売り・ドル買い」の市場介入に出ることがある。市場介入は、「審判」である政府が、綱引きに参加すること。「ドル組」に入って綱を引くことで、「円組」が優勢となっている戦況を変えようとするのである。
2つの通貨の綱引きによって生じる円高・円安。その動向は、企業の業績や株価、そして景気全体にも大きな影響を与えているのである。