SNSで排外的な投稿やリポストをしつつ、自己紹介欄には「右派でも左派でもない普通の日本人」「ただ普通に日本を愛しているだけの日本人」――そんな言葉を載せているアカウントは少なくない。日の丸をアイコンとするそのような人々を総称して『日の丸クラスター』と呼ぶネットスラングもあるそうだが、今、そんな“普通の日本人”の裾野がどんどん広がっているように感じる。
そのきっかけとなったのが「日本人ファースト」という言葉だ。
日の丸の小旗を振り、「ニッポン」とコールしながら移民政策反対デモに参加する一方、職場や家庭では「善良な隣人」だろう人々の姿が2025年の夏以降、突然、可視化された。
そんな“普通の日本人”が抱える不安や剥奪感から、分断の瀬戸際に立つに至った日本社会の行く末を、さまざまな専門家との対話を通じて考える。

是川夕氏(左)と雨宮処凛氏(右)
■空気の変化で制度も変更
「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に対し、国民の皆様が不安や不公平を感じる状況が生じていることに配慮しなければなりません」
この言葉は2026年2月20日、施政方針演説で高市早苗首相が述べたものである。
今や日本の在留外国人は過去最多の395万人超。人口に占める比率はまだ3.2%だが、2070年には10.8%になると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」より)。
そんな外国人への「不安」や「不公平感」、最近とみに強調されるが、あなたは感じているだろうか?
確かにコロナ禍で閉じていた国境が開いて以降、外国人観光客は増えた。マナーなどを巡っての軋轢はSNSでも話題だが、一方で観光客は日本に経済効果をもたらす存在である。また、今やコンビニでも飲食店でも外国人が働く姿を目にしない日はないが、人手不足と言われる現在、私たちの生活は外国人によって支えられている。
不公平感も私は特に感じていない。ネット上には「外国人が日本の健康保険制度にタダ乗りしている!」「外国人は生活保護を受けやすい!」などの言説が溢れているが、ちょっと調べれば外国人は逆に日本の健康保険制度を「支える側」であることや、他の先進国と比較して、この国では外国人の生活保護利用率が非常に低いことがわかる(日本は3.3%。フランスでは12.4%。ドイツでは37.8%。スウェーデンは59.4%。生活保護問題対策全国会議・編『外国人の生存権保障ハンドブック』明石書店、2022年)。
また、「一部の外国人による違法行為」というが、外国人の犯罪は増えているわけではなく、長期的に見るとむしろ減っている。一方、「ルールからの逸脱」は、ざっくりしすぎていて何を指すのかよくわからない。
それでも昨年(2025年)夏、「日本人ファースト」という言葉が登場して以来、「外国人への不安」を訴える人は急増した。多くの日本人の中にある言語化できないモヤモヤを、その言葉は「言い当てた」のだろう。
モヤモヤとは、30年にわたって先進国で唯一実質賃金が上がらず、韓国に平均賃金を抜かれ、中国・ドイツにGDPで抜かれ、インドにも抜かれそうというこの国の衰退への焦りであったり、円安と物価高の中、日本人には手の出ないものを「安い安い」と消費する外国人を目にした時の微かな苛立ちだったり、富士山に軽装備で登る観光客に対する憤りだったり、中国人に土地が買われているという真偽不明の情報に接した時に本能的に湧き上がる「日本が乗っ取られる」という危機感だったりするのかもしれない。
モヤモヤを燃料に、この国では昨年夏以降、突如として外国人叩きが始まった。
そんな空気を利用して、実際の制度運用の変更も起きている。例えば昨年6月には、大学院の博士課程の学生への生活費支援から留学生が排除される方針が明らかとなり、11月には社会保険料などに滞納があれば在留資格の更新が難しくなるなどの運用変更の方針が発表されている。
そうして今年3月10日には、入管難民法改正案が閣議決定。その内容は、一言でいって外国人への負担爆上げだ。
在留資格の更新・変更は現在の6000円から最大10万円への大幅値上げとなり、また永住許可の手続きは1万円から20万円程度と突然の20倍アップである。完全に、排外的な空気に乗っかったとしか思えないやり口だ。
それだけではない。昨年夏の参院選では自民党が「違法外国人ゼロ」を掲げるなど、与党による「お墨付き」も甚だしい。
高市政権が発足してからは外国人担当大臣が創設され、小野田紀美氏が就任。
一方、昨年10月からは全国一斉の移民政策反対デモも始まり、今年2月の衆院選で日本保守党が掲げたスローガンが「移民はもういらん」だったことは記憶に新しい。
1年前、「移民」と言えばどこか遠い外国の話だった。それが今、この国の「最大の脅威」であるかのように語られている。
が、そもそも「移民」と言う時に、私たちはどういう存在を思い浮かべているのだろうか。そこからして、人によってかなりの乖離がある気がする。またこの国の、そして世界の「移民政策」はどのようなものなのか。まずは基本的な知識がなさすぎるのではないか。
もうこれは、移民問題にむちゃくちゃ詳しい人に話を聞くしかない!
ということで、『ニッポンの移民――増え続ける外国人とどう向き合うか』(ちくま新書)著者である是川夕さんに話を聞いた。
■ニッポンの“移民政策”、その実情
是川さんは国立社会保障・人口問題研究所国際関係部部長であり、OECD移民政策会合メンバーであり、また「移民研究の第一人者」とも言われる人だ。
話を聞く前に『ニッポンの移民』を読んだのだが、ただただ驚かされた。例えば第1章のタイトルは“「日本に移民政策はない」は本当か?”。え、あるってこと? 私自身、急激に排外的な空気が作られた背景には、「移民政策の不在」があると思っていた。