昨年25年版には「日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会の実現を目指し、外国人がキャリアアップしつつ国内で就労して活躍できるようにすることなどにより、日本が魅力ある働き先として選ばれる国になるような環境を整備していく」とある。
内容も、「生活者としての外国人に対する支援」「外国人の目線に立った情報発信の強化」「外国人が抱える問題に寄り添った相談体制の強化」などが並び、さまざまなサービスの充実や環境整備が謳われていて、一言でいって非常に「優しい」印象を受けるのだ。
■突然の方向転換
それがどうしたことだろう。昨年までは共生しよう、選ばれる国になろうと言ってた国が今年からいきなり喧嘩腰になって外国人を疑いの目で見始め、管理・排除を進める強硬姿勢を剥き出しにしているのである。
排外的な空気に乗っかって、統合政策がここまで捻じ曲げられていいものなのだろうか? 専門家として、そのあたりはどうですか?
「びっくりしました。非常に残念だなと思って見ていました。入管の人は、彼らなりに本気で共生社会の実現を目指していたと思います。それが今年、大きく変わってしまった。別の力学が働いたということですよね」
しかし、そこに具体策はないとも指摘する。
「包んでいる皮は排外的なものになったけれど、中身のあんこの部分は実はほとんど変わってなくて、排外的なものを推進する具体的な政策ってほぼないんですよ。調査する、適正化すると言いつつ、エビデンスもないですし」
そうなのだ。もっともひっかかるのは、不安や不公平感といったエビデンスの示しようのないものを方向転換の根拠としているところなのである。
ちなみに25年5月、この国では「不法滞在者ゼロプラン」というものが発表され、強制送還が倍増されているのだが、それを始める理由も「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間で不安が高まっている」というものだった(ゼロプランの何が問題についてかはこちらで)。
「『不安と不公平感』っていうのはマジックワードだと私も思います。昨年8月に法務大臣ペーパーというのが出たんですけど、その辺りから使われるようになりました。しかし政府の仕事は、不安と不公平感があるとしたらその元になっている事実を調査し、必要があれば是正することであって、真偽不明の指摘に一緒になって騒ぐことではない。例えば『一部地域で不法滞在の外国人が増えていて不安・摩擦が高まっている』という噂があれば、調査権限を持っているのだから取り締まるのが当局の仕事で、そんな噂で政策立案をするのはおかしいんです」
まさにその通りだ。しかし、現状は外国人担当大臣までもが「ネットを見て、世間で問題になっていることを拾えているかチェックしている」と政府関係者から指摘される有様である(「外国人政策、『共生』から『秩序』へ転換 生活保護の見直しも検討」、朝日新聞、2026年1月24日付)。それにしてもなぜ、政策までもが「空気」によって捻じ曲げられてしまうのか。
「これまで入管以外の役所っていうのは、外国人・日本人を区別せずに政策を立案してきたんです。日本は1979年に国際人権規約を批准して、81年に難民条約に加入していますが、その時に“内外人平等原則”を取っています。それによって外国人でも生活保護を除くすべての社会保障が利用できることになっているんですね。そういう意味では欧米と比べても少なくとも制度面では権利保障に遜色はないとも言われています。ただ、その結果、『外国人』という切り口で急に光を当てた時に、各省庁は実態がよくわかっていない。政治家が外国人が問題であるかのように言った時、役所も止められないんです。それを今、いいように使われちゃっている」
例えば外国人による犯罪も、社会保障へのタダ乗り的な行為も、ごく少数だがゼロではない。その「ゼロではない」ことが強調されて利用される。
そんな中、「秩序ある共生社会の実現」の内、「秩序」に関して外国人担当大臣がやるべきことはなんなのか。
「仕事は……こんなこと言っちゃアレですけど、仕事はないと思います(笑)」
やっぱり!
「取り締まるような事例はほぼないし、秩序系に関してはすることはないと思います。例えば日本のオーバーステイは約7万人ですが、これ総在留外国人の1.7%です。これは他の先進国――韓国18.4%、ドイツ9.0%、フランス4.3%、英国12%、米国24.6%などの非正規滞在率と比較すると圧倒的に低い。むしろ問題が山積みなのは共生の方です。今の政府はやること山積みの共生系に力を入れず、やることがない秩序系にばかり力を入れている。今必要なのは、共生のためのアクセルを勢いよく踏むことです」
そんな中でも喫緊に必要なことはなんだろう。
「やっぱり日本語教育ですね。暮らしの日本語、就労の日本語。あとは外国人児童生徒向けの母語、日本語教育。圧倒的にその量が足りない。今、基本は自治体の予算で、一部、国からの補助が入ってる感じなんですけど、今の財政規模では全然足りない」
このことに関しては、日系ブラジル人を多く受け入れてきた浜松市の「外国人児童生徒の不就学ゼロ」の取り組みや、在日コリアンが獲得してきた権利など、ノウハウを集約し、共有すべきだと是川さんは言う。
■ごく近い未来予想図
政府が排外的な姿勢を強める現在だが、これからこの国では、外国人を巡ってどんなことが起きるのだろう。
「今のような方向性が当面続くのだとしたら、厳しい、狭い道だと思っています。まず、現実を指摘すれば、深刻な人手不足を背景に、これからは主に地方で外国人の受け入れがどんどん増えていくんですね」
特定技能制度が始まって今年で7年。制度上、5年以上働いて技能検定1級などに合格すれば、「2号」となる。そうなると家族も呼べるし永住への道が開かれる。全国で、そういうことが起きてくる。
「東京や大阪は放っておいても外国人が入ってきますが、地方は違う。なので自治体が受け入れに積極的なんですね。でも、ノウハウや体力がないところも多いので国が支援しなきゃいけない。しかし今、国が共生より秩序に軸足を置いていて、共生の方に戻るまで5年10年かかるとしたら、地方は限られたリソースで大変厳しい課題と向き合うことになります」
全国知事会は昨年11月、多文化共生社会の実現に向けた「共同宣言」をまとめている。知事会ではこれまで、外国人の受け入れに関する基本戦略のとりまとめや多文化共生施策の基本法の制定、司令塔組織の設置を国に要望してきた経緯があり、宣言案では排外主義が強く否定されている。
「今、日本は人口が年間100万人弱くらい減っています。その中で、国が共生の方向に戻ってくるのに10年かかったら、我々はその間に人口を1000万人失うわけです。その多くが地方で、県のひとつやふたつなくなってもおかしくない。なので排外主義なんて、寝言は寝て言えみたいなことなんです。今、排外主義は明らかに都市の現象だと思います。他の国だとむしろ地方の方が排外的で都市はリベラルって感じですけど、日本は逆です」
そんな状況でも、「移民を入れると日本人の賃金が安くなる」と反対する声もある。
「そんなことはありません。実際、最低賃金も上がっています。実質賃金が下がっているのはインフレのせいです。今は仕事を奪い合うのではなくむしろ人を奪い合っている状態で、地方も人手不足倒産が増えています」
一方、「日本はもう選ばれない国」という議論もあるが、是川さんはこれも否定する。