「アジアの若者がより良いチャンスを求めている時に視野に入るのが日本、韓国、台湾。アジアでは湾岸産油国に行く人も多いんですが、一人あたりGDPが2000ドルくらいになると湾岸産油国は人気がなくなるんです」
なぜ?
「男性は建設、女性はメイドが多いんですが、どちらも死亡の確率が高い。男性は暑くて死ぬとか暴力を受けて死ぬとか、女性は住み込みのメイドをしていてレイプされて殺されるとか。アジア諸国ってどこも移民送り出しの省庁を持っているんですけど、最初のミッションはご遺体の受け取りなんです。デポジット(保証金、預かり金)のもともとの起源はご遺体の受け取り費用です」
なんだか怖い話になってきた……。
「昨年、ウズベキスタンを視察してきたんですが、ウズベキスタンの場合、出稼ぎの先はロシアなんです。でも最近の若い人は行きたがらない。なぜなら、ロシアに行ったお兄さんお姉さんたちが気がついたらウクライナの戦場に送られていた、なんてことがあるからです。それで結構亡くなっているというのが報じられていて、やっぱりロシアは怖いと」
気がついたら戦場にいたなんて、どんだけ不条理な状況なのか。
そういう意味でも、「安全」な日本の人気は高いのだという。しかも今は、そこでスキルアップした上に永住への道も開かれているのだ。
が、この国には「日本が乗っ取られる」と頑なに受け入れに反対する人もいる。
「今、多くの国で極右政党が台頭していますが、それは亡国の道でしかないと思います。移民で滅んだ国はないけれど、排外主義で滅ぶことはできるんですよね。社会の分断も移民が起こすわけじゃない。参政権もないマイノリティの移民は分断なんか起こせない。その国の人が勝手に起こす分断で、結果、国力や社会の活力も弱まってしまう」
本当にその通りだし、「日本人ファースト」以前、この国では「外国人問題」と言ってもポカンとされるような空気があった。是川さんはこれまでの日本の移民政策を「国際的にみれば圧倒的にパフォーマンスがいい」と評価する。
「労働チャンネルでの受け入れが機能しているために、非正規滞在の人はほとんどいない。難民や家族移民などの人道チャンネルが濫用されていない。もちろん、そのことと日本の難民認定率が低いのはまた別の問題です。他国の場合、労働チャンネルでの受け入れをほとんどしていないため、人道チャンネルで労働目的の移民が来てしまう。そうすると、難民と言っても本当は働きたいだけという人も交じってしまって、難民政策、移民政策への信頼度も下がってしまう。そういう状況と比較すると、日本は国際的にみても制度が額面通りに運用されうる条件を備えています」
その上で、日本の難民認定率の低さは異常ということは強調したいが、是川さんは、「移民の問題は多様性の話であると同時に若者論の話でもある」と言う。
「日本はある意味、もう成熟した社会ですけど、アジアの国はすごい勢いで成長している。日本に来る若い人たちは、その社会の突端で一番豊かになってきている人たちです。そういう意味でいうと、共生社会というのは若者が増えて、若者が生き生きと活躍している社会だと思うんですね。その若者は日本だけじゃなくもっと広い範囲から集まってくる。我々は知らずしらずのうちに老成した社会にいて、外国人というより若者全般を受け入れる余地がなくなってるんじゃないかと思います。いろいろな背景を持つ若者が生き生きと暮らす社会というのが、共生社会のあるべき姿だと思います」
地域活性化などのキーマンを指す「よそ者、若者、馬鹿者」という言葉があるが、まさに移民は「よそ者」の「若者」だ。硬直した社会に新たな風を吹き込んでくれるのは、いつの時代もそんな存在だろう。
さて、移民について長く研究してきた是川さんだが、昨年夏頃から急に取材が殺到するようになったという。
「関心を持っていただけるのはありがたい半面、世の中が悪くなってるのは嫌ですね。24年頃までは外国人受け入れに賛成の人が増えたみたいな記事が新聞に出てたりしてたので、日本は排外主義とはまだ距離があるなと思っていたんですが……。この研究を始めた頃なんてほとんど誰も関心持ってなかったのに、びっくりしてます」
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ここまで読んで、あなたの「ニッポンの移民」の解像度、ぐっと上がったのではないだろうか。ちなみにこの原稿では人数が多い在留資格に触れたが、他にも高度専門職などさまざまな在留資格がある。関心がある人は調べてほしいが、移民について知れば知るほど、私たちはすでに共生社会に住んでいることを実感する。
そんな中で望むのは、国が「移民政策はとらない」などとごまかすことをやめ、「秩序」から「共生」へと再び舵を切ることだ。それこそが、日本にいる外国人の権利を守ることにつながる道だろう。しかも27年からは、新たな外国人材受け入れ制度である「育成就労制度」も始まる。
1990年代後半、デンマークでは難民が公的支援を受けていることを問題視する報道によって排外主義が煽られた。その時、あるタブロイド紙は「デンマーク人は外国人の入国について、一度もイエスかノーかを言う機会を与えられていない」と主張し、排外主義を煽ることを正当化した。「(不安の正体 多民社会)反移民、火つけた集中報道 笑顔の難民写真に「1500万円援助」見出し」(朝日新聞、2026年2月15日付)。今の日本は、同じように一度も正面から議論されていない状態である。
だからこそ、もっとオープンに議論すべきではないだろうか。そこからしか、きっと始まらないと思うのだ。
参考文献
生活保護問題対策全国会議・編『外国人の生存権保障ハンドブック』(明石書店、2022年)
是川夕『ニッポンの移民――増え続ける外国人とどう向き合うか』(ちくま新書、2025年)
「『欧米を反面教師に』と言うけれど 移民巡る比較がナンセンスなわけ」毎日新聞2025年12月23日付
「外国人政策、『共生』から『秩序』へ転換 生活保護の見直しも検討」朝日新聞、2026年1月24日付
「(不安の正体 多民社会)反移民、火つけた集中報道 笑顔の難民写真に「1500万円援助」見出し」朝日新聞、2026年2月15日付
