SNSで排外的な投稿やリポストをしつつ、自己紹介欄には「右派でも左派でもない普通の日本人」「ただ普通に日本を愛しているだけの日本人」――そんな言葉を載せているアカウントは少なくない。日の丸をアイコンとするそのような人々を総称して『日の丸クラスター』と呼ぶネットスラングもあるそうだが、今、そんな“普通の日本人”の裾野がどんどん広がっているように感じる。
そのきっかけとなったのが「日本人ファースト」という言葉だ。
日の丸の小旗を振り、「ニッポン」とコールしながら移民政策反対デモに参加する一方、職場や家庭では「善良な隣人」だろう人々の姿が2025年の夏以降、突然、可視化された。
そんな“普通の日本人”が抱える不安や剥奪感から、分断の瀬戸際に立つに至った日本社会の行く末を、さまざまな専門家との対話を通じて考える。
■外国人へ向けられる、うっすらとした敵意
外国人に対する日本人の意識調査を2009年からしている人がいる。
調査は4年ごと。これまで09年、13年、17年、21年、25年に実施された。
21年までの傾向を見ると、「右傾化」と言われた第二次安倍政権下でも人々の意識はそれほど右に傾いておらず、外国人は増え続けているものの、脅威とみなす人々は減少傾向にあったという。
しかし昨年(2025年)、「日本人ファースト」という言葉をきっかけに、この国の空気は大きく変わった。突如として外国人叩きが始まり、全国各地で移民政策反対デモが開催されるようになった。
そんな昨年からの変化は、この国の人々の意識にどんな影響を与えたのか。
直近の調査がなされたのは、25年11月。はからずも高市政権が発足した直後。その結果の概要が最近、明らかになった。
「国際化と市民の政治参加に関する世論調査」を実施した、早稲田大学文学学術院教授の田辺俊介さんに話を聞いた。
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田辺俊介氏
排外主義についての研究を続けてきた田辺さんだが、そのきっかけは大学1年生の3月、19歳で訪れたロシアでのある経験だったという。1996年のことだ。
「旅行で行ったモスクワで街を歩き始めた初日に、スキンヘッドの若者に取り囲まれていきなりバーンと一発殴られたんです。蹲(うずくま)って防御体制を取って、人が集まってきたので終わりましたが、金目当てとかではなくて、アジア系の顔ということで気に食わないと殴られたんだと思います。ある種のヘイトクライムですよね」
なんとも恐ろしい体験だが、ロシア滞在中はそんな経験からずっと「怖さ」を抱えていたという。
「地下鉄で近くに屈強なおじさんがいたら、『この人にやられたら死ぬな』と考えたり。今となっては笑い話にできますけど、ヘイトを受ける側の気持ちがわかりました。ましてや、自分がいま暮らしている国で一度そういうことをやられた人は、ずっと怖いんだろうなって。その時、”自分たちとそれ以外”とするだけで人が人を簡単に殴れるのはなぜなのか、と思ったことが今の研究につながっています」
それ以前から、紛争下でのヘイトクライムには興味があったという。
「高校生の時にユーゴ紛争があって、テレビで見ながら『なんで隣人だった人を、状況が変わったら殺せてしまうんだろう』と衝撃を受けました。その前にはルワンダの虐殺がありましたよね」
アフリカ中央部のルワンダで94年、当時の政府軍やフツ族の過激派がツチ族を襲撃。わずか3カ月で80万~100万人が殺害されたという20世紀最悪のジェノサイドのひとつである。虐殺以前、ツチ族とフツ続は隣人であり、夫婦となる者も多くいた。虐殺は、ラジオで繰り返されるヘイトスピーチから始まったと言われている。
そんな田辺さんが大学での研究テーマとして考えたのは、「戦争の時、なぜ人は人を殺せるのか」。その背景の一つとしてのナショナリズムについて、その後研究し続けている。
翻って現在、この国で戦争は起きていないものの、昨年から突然、外国人に厳しい視線が向けられるようになっている。
そんな空気の変化によって、日本に住む外国人にこれまでなかったことが起きている。例えば今まで借りられていた住居や駐車場の契約を更新できなくなった、あるいは子どもが学校で「日本人ファースト」と言われたなど。
最近アフリカ系の10代女性から直接聞いた話には、胸が痛くなった。
彼女はイスラム過激派に親族を殺されたことから家族で日本に逃げてきたのだが、いまだ難民認定はされていない身。日本語も一切できない状態から約10年間、日本社会に溶け込むために必死の努力をし、現在は高校生である。外国人も少ない学校で、それでもクラスメイトに打ち解けるべく頑張ってきたのだが、昨年夏以降、明らかに空気の変化を感じるという。
高校生がよく見るTikTokでは排外的なインフルエンサーが人気を博すようになり、昨年8月に起きたJICA(国際協力機構)の「アフリカ・ホームタウン」騒動の際はSNSにアフリカヘイトが溢れた。衆院選の際は「違法外国人ゼロ」を掲げる自民党・高市総理の動画をTikTokでよく見かけるようになり、街頭では「外国人のせいで治安が悪くなる」という演説にも遭遇したという。そんな折、彼女は知人に突然「不法滞在なの?」と聞かれたと告白してくれた。約10年日本にいて、一度もそんなこと言われなかったのにだ。このような話を聞くたびに、無関心が、うっすらとした敵意に変わっているのをひしひしと感じる。
そんな空気の変化の中、昨年10月には、北海道・江別市の中古車販売店にロケット花火が打ち込まれるという事件も起きている。中古車販売店を経営するのはパキスタン人。SNSに「江別にパキスタン村ができている」「パキスタン人に江別が乗っ取られる」などの書き込みがなされている中でのことだった。ロケット花火だけでなく、石を投げる、バットを持った集団が集まり罵声を浴びせるなどの事態も起きており、ネットのデマを鵜呑みにしたヘイトクライムの様相を呈している。