「外国の人が増えることによってこんなポジティブな影響があるということはもっと言ってもいいですよね。もうひとつ、接触仮説というものがあります。これは人種などの異なる集団に属する者たちが直接、接触・交流することで偏見や差別が減るという仮説です。外国人一般ではなくて、個別の“アフメド君”とか顔の見える関係だったら、あの人も頑張ってるんだな、とわかる。そんな人に『出ていけ』とか言えないじゃないですか」
確かにその通りだ。が、ここで田辺さんは衝撃的なデータを述べた。
「21年の調査結果では、外国人との間で『あいさつ程度の付き合い』以上の、何らかの顔が見える交流ありとちゃんと回答した人は、3割程度だったんです」
いくら「顔の見える関係が大切」と言っても、その経験を持つ人の方が少数派なのだ。東京で暮らし、仕事でもプライベートでもさまざまな国の人たちと関わっている身からすると驚くが、地域によっては外国人の知り合いゼロの方が多数派なのだろう。思えば日本のパスポート保有率は2割以下。島国から一度も出たことがない人が多くいるのだ。
が、今やこの国は外国人なしでは回らない。田辺さんは言う。
「日本は少子高齢化どころか、超少子高齢化なんですよ。こういう国に若い外国人が来てくれるということは、ヨーロッパよりもはるかにポジティブな効果が大きいわけです。だから日本は排外主義なんてやってる場合じゃないんですよ」
まったくその通りだ。外国人が日本からいなくなったらどのようなことが起きるのか、排外的な言説をする人はわかっているのだろうか。
「コンビニは24時間営業ができなくなるし、店舗数も半分くらいに減るでしょう。農作物を収穫してくれる人もいなくなり、介護の現場も回らなくなる。そういう人たちの給料が安すぎることは問題ですが、外国人を追い出したら、私たちの生活レベルは一気に下がるだけです」
ここで田辺さんは、全国知事会が昨年11月に出した、多文化共生社会の実現に向けた共同宣言について触れた。知事会ではこれまで、外国人の受け入れに関する基本戦略のとりまとめや多文化共生施策の基本法の制定、司令塔組織の設置を国に要望してきた経緯があり、宣言では排外主義が強く否定されている。
「全国知事会が排外主義をやめてくれと言ったのは、本当に切実だからだと思うんです。特に地方であればあるほど、外国の人が来てくれなければもう回らないという現実がある」
■排外主義の先にちらつく「戦争」
そんな中、どうやって排外主義を乗り越えていけばいいのだろうか。
「さっきの調査結果で見ても、ネットの影響で大きく数字が動いているわけですが、10ポイント動いたとしても、10ポイントは10人に1人なんですね。全員じゃない。調査をしていると、よくあるのは3割が賛成、3割が反対、4割がよくわからないという結果です。この“よくわからない”4割は、社会の雰囲気を見て決めている。昨今の排外的な空気というのは、その4割の人たちの一部が、ネットの情報を見て動いてしまった。でもよく考えてみると、日本は移民国家化しているのに、それを国が認めないことによって情報空白ができ、人々のイメージする日本と現実の社会との間のギャップが大きくなっているとも言える。そういう時に必要なのは、ちゃんと情報を出して、外国人の犯罪は増えていないとか、福祉のタダ乗りは事実ではなく、少なくとも今の段階では外国人は制度を支える側である。そんな事実をしっかり言い続けることだと思います。それによって、揺れた人たちが少しでも戻ってきてくれればいいと思います」
しかし、昨今の排外的な空気はすでにさまざまな制度を変えてもいる。
帰化の厳格化や在留資格の更新の条件がより厳しくなったなどがあるが、2025年10月には、在留資格「経営・管理」ビザの要件も厳格化された。これまでは用意すべき資本金が500万円だったのに対し、急にその6倍の3000万円にまで引き上げられることになったのだ。これにより、インド料理店、ネパール料理店などが激減するのでは、と言われている。
「私、インド料理やネパール料理が大好きなんですよ。それを変な規制で潰すなんて、誰得? と思いますよね。今、誰も損してないのになぜそんなことをするのか。一方、確信犯的に排外主義で人気を取った政治家やそれで稼いでいるYouTuberはいますが、そこに乗ったって、何も得はない。そんなことをしていると日本は選ばれない国になって、10年後はよりジリ貧になってますよ」
10年後、20年後を考えると、本当に排外主義なんて百害あって一理なし、なのだ。
「だけど人によっては、自分たちは共同体のためにこんなに頑張ってるのに、裏切り者たちが嘘をついているという思いを持っている人もいる。一度そういう世界観を持ってしまうとそこから抜け出るのは大変です。が、怖いのは、確信犯的にやっている人も引くに引けなくなるということです。排外主義を利用して煽っているつもりでいても、自分で制御できなくなる可能性がある。特に政治家は自分が煽ることで短絡的な人気を得たり、軍事費を増やせてよかったということがあるかもしれません。でも、それがのちのちどういう結果を生み出すのか。例えば戦前の日本は、メディアがあまりにも戦争を煽り、国民があまりにも熱狂したことで開戦への道を辿りました。当時のエリートは誰一人、対米戦争に勝てるなんて思っていなかったにもかかわらず、です。排外主義は、その一端になるのではないかと思っています」
そう、この道の先には「戦争」がちらつくのだ。だからこそ、私はずっと警戒してきた。
そして「日本人ファースト」というたった一言でこの国の空気が目に見えて変わった昨年夏、私がもっとも強く感じたのは、「戦争ってこんなふうに始まるんだろうな」だった。
田辺さんの次の調査は3年後の2029年。
その時の調査結果はどうなっているだろう。できたらまたその時、お話を聞きたいと思ったのだった。
参考文献
田辺俊介「排外主義の成り立つ地点――価値観と情報空間にみる底流」、『地平』2025年10月号、地平社
