
雨宮処凛氏
■ネガティブな情報の方が“刺さる”
排外主義を研究してきた田辺さんだが、突如としてこの国に排外主義が台頭することを、予想していただろうか。
「日本にもいずれ来るだろうとは思っていましたが、これほど急にとは思っていませんでした。海外では排外主義と極右政党の研究は盛んですが、日本はこれまでその種のことは話題にもならなかった。そういう分野を我々が定点観測しつつ、むしろ注目されないことこそがいいこと、と思っていたんですが、このところ、急に私のところへの取材依頼も増えました」
前回取材した是川夕さんも急に取材依頼が増えたと言っていたが、移民や排外主義を研究している人がひっぱりだこになるのは、決していい傾向ではないだろう。
「日本の外国人比率はまだ3.2%です。海外ではある時期まで、移民が増えすぎたから排外主義が伸びると言われていました。ですが最近はそんな単純な話ではないと言われるようになりました。むしろ移民が一定の数になっていくと、その地域では交流も増え、結果として排外主義は収まる傾向もある。一方、移民は政治的な宣伝に使われてきました。それぞれ国ごとに排外主義に結びつくような物語を作ることができてしまうんです」
遡ると、80年代のフランスですでにそのような言説はあったという。
「80年代、オイルショック後の不況下で、フランスの極右政党が失業の原因を移民と結びつけました。有名なスローガンは『200万人の失業者、200万人の移民』。たまたま数が合うものを使ってそんなスローガンを作った」
インパクトは大きそうだ。
「刺さるといえば刺さりますよね。政治が失業問題などに対応できない時、人間って原因を求めるじゃないですか。そこで移民は目につきやすい。ただ、移民はフランスの若者が就きたくない仕事に就いているので、単純に仕事が取られるという話ではない。しかし、ヨーロッパの極右は、このような形で仕事と移民の問題を結びつけて勢力を伸ばしました」
一方、日本では治安の問題と結びつけられてきたという。
「2000年代には、警察が外国人と犯罪を結びつけるようなキャンペーンをしており、たとえば警察の発表資料では「来日外国人犯罪」というカテゴリーが強調されていました。また、石原都知事(当時)は2000年、陸上自衛隊の式典あいさつで『東京では不法入国した三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返している』『大きな震災では騒擾事件すら想定される』などと発言しました」
103年前、関東大震災が起きた時、「朝鮮人が井戸に毒を入れている」というデマが広まり、それによって大勢の人が虐殺されたことを想起させるような発言ではないか。また「三国人」は戦後の一時期に使われた、在日韓国・朝鮮人や台湾人を指した差別的な言葉である。
が、政治家によるそんな発言がありつつも、昨年春頃まで、この国には外国人をことさら敵視するような空気はなかった。
「自民党には穏健派から極右までいたので、他の極右政党が出てくる余地がなかったんだと思います」
そこに登場したのが、「日本人ファースト」を掲げた参政党。
「何か奪われた感のある人たちに刺さったんでしょう」と田辺さんは指摘する。
もうひとつ、「ネガティビティバイアス」もあるだろうと語った。この言葉は「否定的だったり、危険と感じたりする情報のほうが人びとの感情をかき立て、行動を促す」傾向のことを言う(田辺俊介「排外主義の成り立つ地点――価値観と情報空間にみる底流」、『地平』2025年10月号、地平社)。昨今のSNSや動画などは、まさにそのような感情を煽る装置の役割を果たしている。思えば23年からは「クルド人に日本が乗っ取られる」的な言説がSNSによって拡散されていた。
「今回の調査では、見ている情報空間の違いがこれほど外国人に対する意識に影響するのか、という結果が出ました」
それはYouTubeやTikTokなどの動画共有サービスを利用しているか否か。当然そこには真偽不明の情報が溢れているわけだが。
「人は『あいつら犯罪者!』などのネガティブな情報の方が、『エッ』と思って見てしまう傾向があるんですね。だからこそ、そっちの方がバズりやすい。逆に『移民が毎年20万人増え、そのおかげでGDPも底上げされている』というような意見はバズらない。それよりも、人を内集団と外集団に分けて、外の人はみんな悪い人たちで自分たちを守らなきゃ、という方が感情をかき立てられる」
■「日本人ファースト」以降の意識
防衛本能と結びついているところがまたやっかいなわけだが、ここから25年の調査結果を見ていこう。
調査は11月、18歳から80歳までの3000人に無作為抽出で行ったという。
質問項目は多岐にわたるが、まず取り上げたいのは、「日本に住む外国人が増えるとどのような影響があると思いますか」という設問のうち、「日本社会の治安・秩序が乱れる」を選んだ人の割合。
調査初年の09年、「そう思う」「ややそう思う」と答えた人は計68%。しかし、13年には58%と10ポイントダウン、17年には62%、21年には54%と初年よりは減ってきた。
が、25年の調査では71%にまで急上昇。この国の「体感治安」が、外国人叩きの空気によって一気に悪化した形だ。
それでは同じ設問で外国人が増えると「異文化の影響で日本文化が損なわれる」と答えた人の割合はどうか。直近の結果と比較していこう。
21年は「そう思う」と「ややそう思う」を合わせて22%だった。しかし今回の結果では、40%。20ポイント近くの増加である。
また、外国人叩きの中で、「日本の健康保険制度にただ乗り」的な言説も幅を利かせているが、外国人が増えると、「生活保護などの社会保障費用が増える」に21年「そう思う」「ややそう思う」と答えたのは計41%だったのに対し、今回は59%。急増と言っていいだろう。
「これまで外国人が増えても、むしろ脅威に感じる人は綺麗に減っているという結果が出ていました。それが今回の調査では、一気に増えていた。定点観測をしていたからこそわかったことです」
「日本人ファースト」以降の社会の空気がこれほどはっきり示されるデータもないだろう。
一方、外国人が増えると、「日本人の働き口が奪われる」に関しては違う傾向が出た。