日本の男性の「遊び」=「女」という感覚がある
北原 昨年(2017年)夏『日本のフェミニズム』という本の編集のために、日本の近代からのフェミニズムの運動についていろいろ調べてみたんですが、そこで気付いたことは、伊藤博文(のような、これまでの権力者たち)の罪は大きいということ。
日本の男性の「遊び」ってずっと貧しかったのかも。飲む、打つ、買う、だから。女を利用したり搾取したり、そういうことで男は自分の優位性を担保してきたのよ。そして、女に対するエロ情報を共有することで、男たちは連帯してきた。そういうのを伊藤博文のような近代の権力者が、率先して見本を見せてきたのよね。英雄色を好む、みたいな感じで、女を囲って、女を粋に買うことができて、男として一人前、みたいな。だから、みんな愛人持ちたいよねとか、フーゾク行きたいよね、セクハラなんて文化だよね、という「遊び」文化が脈々と続いてきた。
男の「遊び」=「女」という感覚は、兵隊の娯楽=「慰安婦」という感覚と一直線につながるんでしょうね。日本軍は、娯楽としてセックスを強制し、拒否すれば「おまえは男か!」って殴られた。休みもなければ、何のために自分たちは戦ってるかも分からない中で、その列に並ぶしかないという状況だった。
もちろんいちばんの犠牲は女性たちですが、男の性も国家に利用されていたんですよね。「男の性など、こんなものだ」と国家にバカにされている。これは戦時中の軍隊だけじゃなくて、戦後の経済発展期だって同じですよね。あちこち海外に出ていって、現地妻とか女を買いまくって、それが当たり前だった。経済と男の性がくっついて発展してきているから、この種の(男性への)呪いは明治以降だけでも150年も続いているんです。呪いを解くのには、倍の年月がかかると思う。だから、私はもう諦めていて、この国の男たちは(変わるのは)無理だろうなと。
雨宮 諦めては、ダメですよ。
北原 今ようやく#MeTooのように女性たちの怒っている声が表に出てきたけれど、じゃあ、それによって本当に男たちが性に対する考えを変えられると思いますか? この日本の教育の中で? 長い間、培ってきた日本の文化とか意識とか、そういったものですよ。すごく時間かかるだろうから、私が生きている間には無理じゃないか。……でも、変えたいよね、変えなきゃねって思います。
スイスの雑誌記者から、「日本の女性はかわいそう」と言われた!
北原 男性たちが自分を人間だと思うことが必要だと思うんですよ。こんなふうに(周囲に)エロ情報が氾濫していて、その上「男たちの欲望なんてこんなもんだ」と決め付けられていますが、「いや、違うでしょ、もっと優しい関係があるでしょう」と男の人自身が(人間性を)求めないとだめですよ。
この国では、エロや性産業って一大産業じゃないですか。経済的に回っている。供給する側はどんどん欲望を再生産していくようになっている。
雨宮 日本って特殊ですよね、これだけ男性が安全に手軽に性を買えるっていうこともそうだし、その性のサービスがとても細分化している。なのに、性教育はふわっとした感じで(きちんと教えないし)、一方で過激なAVとかが誰でも見られる状況になっている――。
この前、スイスの雑誌の取材を受けたんですが……。
北原 私も同じ取材を受けましたよ。日本のフェミニストに取材していますって言うから、誰かなと思ったら、私と雨宮さんだった。日本はどうなるんですかって、逆に心配されなかった?
雨宮 されました。私が、日本のおっぱいパブの話とかを記者の人にしたら、すごいショックを受けていました!
北原 その取材はどんなものだったかというと、3DのAIの「嫁」をお家に飼う装置が日本で発売されたんですよ。女の子のキャラクターが3Dになって投影されて、ちっちゃいボックスの中の女の子が、帰宅するまでに電気をつけておいてくれたりとか、帰ってくると「おかえり。ご飯にする? お風呂にする?」みたいなことを言ってくれたり、一緒にテレビとか見てくれたり……。
雨宮 命令すれば、AIだから家の電気もつけてくれる。ちっちゃい萌えキャラの嫁が家にいるってやつ。
北原 それを見て、スイスの人が「日本人はどうなるんでしょうか?」と心配してた。
「滅びると思います」と言ったら、納得されちゃって(笑)。だけど、そういう商品が日本で販売されたということを聞いて、驚かない自分がいた。
雨宮 なんで、スイスの人がこんなに怒っているんだろうと思いました。もう慣れちゃっているんですね、私たち。
スウェーデンとかヨーロッパの話を聞くと、もう小学校の頃から、セックスがいかに素晴らしいコミュニケーションかってところから、教えられる。セックスは素晴らしく大切なコミュニケーションであるっていう、前提をまず叩き込まれる。で、中学、高校でもう実践でしょ、コンドームの付け方とかの。そういったことを子どもは、周囲の大人や家族からも学ぶ。そんな性教育、日本ではないですからね。ジェンダー教育もね。
北原 日本の女性は、かわいそうだと言ってましたね。
雨宮 よく正気でいられるな、この国で。日本の女はって!
*「この国で、女子でいることはかなりしんどい。その3」につづきます。
写真家アラーキーとそのモデルさんの話
2018年4月に、写真家荒木経惟氏の作品のモデルを長年務めていた女性が、被写体となっていた時期の荒木氏との関係、撮影について契約書や同意書がなかったこと、周囲からの嫌がらせ等から精神的苦痛を受けたとネット上で告白した。