なんというか、家の中の緊張がちょっとゆるんだ感じになったのだ。「家族はガス抜きの穴もない圧力鍋のようなもの」という、ある家族療法の専門家の言葉通りの状態だったのが、ガスが少し抜けたのだ。そのきっかけが、「母親が自己実現もかねてケーキ屋で働き出して、家庭の外に居場所ができたこと」だったのは言うまでもない。
もちろん、だからといってどんな家庭でも「じゃ、母親が仕事に出れば問題は解決か」というとそうではない。改善のきっかけは千差万別で、かつ最適なタイミングのようなものもあり、それを見間違えると状況はさらに悪化する。だからこそ、ペースメーカー役の精神科医やカウンセラーが必要なのだ。
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札幌の家族はどうすべきだったのか。このケースが不幸だったのは、父親が名高い精神科医だったため、専門家にいわゆる“泣きつく”のがむずかしかったことであろう。「自分たちじゃもうどうにもならない、誰かどうにかして」と音を上げることも、対応が困難な子どもを抱えた親にはときに必要となる。
親は「子どもには自分たちしかいない」と思い、問題を持った子どもを尋常ではない愛情で丸ごと抱え、「なんとかしてやりたい」と必死に頑張る。しかし、親の頑張りには限界があり、またそれが必ずしも子どもを、あるいは家庭を救うわけではない。「ガス抜きできない圧力鍋」の中で身動きできなくなっている親たちには、「親にも自分の人生を生きる権利がある」という大原則を伝えたい。
家族療法
編集部注:家族を一つのシステムとみなし、このシステムの中での関係を見つめ直すことで、問題を改善・解決しようとする精神療法