俳優、ミュージシャンとして女性に人気があった押尾学容疑者が合成麻薬を使用、同じ部屋にいたと思われる女性が死亡した事件が起きたすぐ後で、トップアイドルを経てママタレントとなり、20年以上も活躍してきた酒井法子の夫が覚醒剤所持で逮捕。さらに、本人にも覚醒剤取締法違反容疑で逮捕状が出され、数日後に本人が出頭した。
芸能界や音楽界では毎年のように、大麻や覚醒剤などの所持で逮捕される人がいる。多くの人の印象に残っているのは、1990年1月、ハワイ・ホノルル空港で下着にマリファナとコカインを入れていたとして現行犯逮捕された俳優の故・勝新太郎氏の事件ではないか。勝氏は逮捕後に記者会見を開き、「今後はこんな事件を起こさないよう、もうパンツをはかないようにする」などととぼけた発言を繰り返し、薬物受け渡しの経路などかんじんなことについては何も語らなかった。帰国した翌年に日本でも逮捕され、執行猶予つきの有罪判決を受けたが、裁判では「傍聴者」を「観客」と呼ぶなど、終始、勝氏のペースを崩すこともなかった。
もちろん、麻薬所持に関して誰ならよくて誰なら悪い、という区別はできないが、勝氏のようないわくつきの個性派俳優と、押尾容疑者や酒井容疑者のように若い人たちにも人気の高い俳優やタレントの場合、社会への影響力には大きな差がある。とくに酒井容疑者の場合は、日本のみならずアジア各国でも清純派の女優として大きな人気を誇っていただけに、各国の若者に与えたショックは計り知れないと言われている。
麻薬や覚醒剤に手を出してしまった芸能人も、それが法に触れ、心身をむしばむものであるということは十分、知っていたはずだ。にもかかわらず、安易に薬物に手を出す人が後を絶たないのはなぜなのか。
ひとつには、一般人には入手しにくい薬物が簡単に手に入るということが、芸能人としての優越感を刺激するからではないか。「コンサートのプラチナチケット」「ヴィンテージもののワイン」などと同じ感覚で、これらの薬物を手にできることも自分の人気や才能の証しなのだ、と錯覚してしまうタレントも残念ながらいるようだ。
それから芸能人の場合、人気や収入の浮き沈みがあまりに激しい、というのも大きいだろう。連続ドラマに出演しても、視聴率が悪ければ途中で打ち切り。今年はCDがヒットしてCMの仕事が来ても、来年にはもう新人に取ってかわられているかもしれない。「派遣切り」で人生の先が読めず、苦しんでいる若者も多いが、ある中堅タレントが雑談の中でこうもらしたことがあった。「私たちなんて、一生、“派遣切り”の恐怖におびえながら仕事しなければならないのよ」。しかも、良いときと悪いときとのギャップがあまりに大きいので、自分自身でも「自分の価値」を見定めることができないのだ。
そういう意味で、芸能人として長年、問題も起こさずに生きていける人というのは、基本的には、芸能の仕事とは別の部分で自分にしっかりとした自信を持つことができて、多少の人気や収入の浮き沈みもそれほど気にならない、というタイプなのだろう。あるいは、「人気がなくなったらそのときはそのとき」と徹底的に現在だけに目を向けて、その日、その日を踏みしめていけるタイプ。
ところが、世間の人たちが見たいのは、そんな“どっしりタイプ”や“割り切りタイプ”ではなくて、自分たちと同じように傷ついたり悩んだりする繊細さを持った芸能人である場合が多い。芸能界のプレッシャーに押しつぶされ、耐えられなくなって薬物に手を出す芸能人たち。気の毒な面もあるが、自分たちが社会に与える影響の大きさももう少し、自覚してほしいと思わずにはいられない。