2009年はアメリカでも日本でも政権交代が起き、いよいよ世界が変わり始めるのでは、と変化の予感に胸躍った人も少なくなかった。前年に起きたリーマン・ショックの影響もまだ続いている中で、逆に「もう底は打ったのだから、これからはよくなるはずだ、いやよくなってもらわなければ」と祈るような気持ちで期待した人もいた。
たしかに世界経済に関しては、少しずつ息を吹き返し、早くも「リーマン以前に戻った」と宣言する国もあるようだ。ところが、日本経済はいっこうに立ち直りのきざしを見せない。失業率も依然として高く、企業に“雇い控え”のムードが漂って、春に卒業を迎える高校生や大学生は、突然の就職難に泣いている。船出したばかりの民主党政権にも問題が山積で、マニフェストの実行も先送りぎみになりつつある。
このような中で、「さて、新しい年の行方は」と問われてもなかなか明るい展望が見えるはずもない。とはいっても、雑誌を開いてもテレビを見ても、「これまでにない困難な年」とか「明るい材料がこれといって見当たらない」といった言葉ばかりではよけいに気が滅入り、「がんばろう」という意欲も失せてくるような気がする。
なぜ、メディアには暗い言葉ばかりが並ぶのか。ここでひとつ気をつけなければならないのは、識者の言葉が載っているその新聞や雑誌の状況だ。
政治学者の姜尚中さんとあるシンポジウムで同席する機会があったが、姜さんは彼らしからぬジョークを口にした。「太宰治とかけて、テレビの世界ととく。その心は…“斜陽”」。テレビをはじめとするマスメディアが、かつてないほどの苦境に立たされている現状を語ろうとしたのだ。
このように自分たちが厳しい状況にいると、「さて、新しい年は?」と識者にコメントを求めてインタビューに行っても、最初からトーンが暗くなる。「あまりよい話はありませんが」などネガティブな前置きをしてから質問が始まるので、半ばそれを受ける形で「そうですね、今後、政治はますます混乱し…」と話が進んでしまうこともあるだろう。
しかし、もしマスコミが暗いからそこに載る「2010年の展望」も暗いのだとしたら、個人で発信するブログなどは違うはずだ。「何かと暗い話題が多い09年でしたが」といったインタビュアーの誘導尋問とも無縁の個人のブログには、明るい予言、予測も多いのだろうか。
ところが、ざっと見るかぎりそうとは言えないようだ。もちろん、「子どもが生まれます」「ついにマイホームが完成する予定」など明るい見通しを書いている人もいるにはいるが、社会全体に関する記述となると、政治、経済、雇用、教育、福祉に医療、とにかく全般にわたって「ますます心配」「何かとんでもないことが起きそう」などとネガティブな言葉がやたらと目につく。きちんとしたデータがあるわけではないが、「今年は世の中も明るくなりそう!」などと楽観的な展望が書かれているブログは、全体の1割にも満たないのではないだろうか。
こういった様子を見ていると、デフレスパイラル同様、人々の気持ちにもマイナスのスパイラル、いわば“うつスパイラル”が起きているのでは、という気がしてくる。もちろん、根拠のないプラス思考も問題だが、自分で自分をどんどん暗い方向に追い込むモードに日本全体が入っているのだとしたら、それじたいがかなり深刻な問題だ。“うつスパイラル”から脱出するために、まず何から手をつければよいのか。新しい年はそこから考えたほうがよいかもしれない。