それによると、目につくのは次の2点。まず、下降線をたどっていた子どもの体力は、はっきりとした回復基調にあることがわかった。とくに13歳男子の50メートル走では平均7・91秒と、1985年度ごろの水準に戻ったそうである。
この改善には、学校以外でも日常的に地元のクラブや家庭などで生活に運動を取り入れる子どもが増えている、といったいくつかの要因が関係していると考えられる。とはいえ、全体的にはピーク時と比べると多くの項目でまだまだ低い水準だ。結局、「ふだんからスポーツに取り組むなどして、一部の子どもの体力、運動能力が高まっている」ということなのだろう。
一方、「全体的にずっと右肩上がり」という世代もある。それは、65歳以上の高齢者の体力・運動能力だ。この世代では、調査を始めた98年度以降、握力や脚力など、大半の項目で成績は向上の一途をたどっている。文科省は「健康ブームで60代以上で定期的に運動する人が増えているのが要因」とみているが、「元気なシニア」がデータでもはっきり示されたことになる。
それに比べて、情けないのが若い世代。20~30歳代は体力、運動能力ともにじわじわ低下、とくに女子で低下がはっきり目立っている。
健康志向、スポーツブームは、子どもやシニアに限ったことではないはずだ。街にはジムがあふれ、以前にはなかったような最新のトレーニング方法を気軽に試せるようになった。テニス、ゴルフなども一時期は「セレブのスポーツ」であったが、いまはずいぶん敷居も低くなっている。スポーツ環境に関しては、どんどん改善されてきているはずだ。
ただ、それ以上に若い世代がこだわっているのは、「見た目」。つまり、健康志向よりもダイエット志向のほうが勝っていて、「とにかくカロリーをとりすぎない、体重を増やさない」ということで頭がいっぱい、という人も少なくない。
それに、この年代では健康のために運動をしたり、ゆっくり休養をとったりするよりも、とにかく仕事のスキルアップをして年収をあげ、資格をとって貯金も増やして…と「からだより脳」「からだよりお金」という考え方にとりつかれている人も少なくない。「何ごとも健康があってこそ」「からだの元気にまさるものなし」と思えるのは、40代になってからかもしれない。
診察室には、無理なダイエットや長時間労働でからだをこわし、それでも「こころがちょっと落ち込んでいるだけ」と思い込んでその治療にやって来る人も、大勢いる。彼らに、「いや、あなたの場合、こころよりもまず、回復させなければならないのはからだのほうですから、まずはゆっくり休んで、それから散歩や軽い運動をしてみましょうか」と言うと、「そんなまどろっこしいことより、まず抗うつ剤をくださいよ! 私には時間がないんです」と気色ばむ30代も少なくない。
しかし、ちょっと考えれば、30代よりもっと“時間がない”はずの60代が、「やっぱり健康第一」とがんばっているのである。大切な人生の前半戦で自分を酷使し、弱らせて、ミドルエージをすぎてからようやくフィットネスだ、ジムでトレーニングだ、と目覚めても、時すでに遅し、という場合もある。大切な脳だってからだの中に鎮座しているのだから、まずはその健康を優先的に考えて、自己啓発、スキル向上はそれからゆっくりでも、決して遅くないはずだ。