日本では、1960年代から大学生を中心に多くの若者が入信し、出家して“教祖一色”の生活を送るようになった。大学では「統一原理」を学ぶ学習サークルを名乗り、堂々と活動していたこともある。
また70年代後半からは、信者たちが「先祖の因縁、霊の縛り」といった脅し文句で法外な値段の商品を売る「霊感商法」や、教祖が選んだとされる相手と初対面で結婚する数万人規模の「合同結婚式」が、大きな社会問題となった。また、子どもを洗脳されたとする信者の家族などが被害者の会を結成し、今なお信者の奪回や信仰を捨てさせるための活動を続けている。
もちろん、信仰そのものは自由なので、よほど反社会的でない限り、「教義が間違っているから」とその宗教を否定することはむずかしい。しかし、脱会者らによると、「統一教会」では、勧誘に際して大きな問題があることがわかっている。それは、自分でも気づかないうちにその人が他の価値観をすべて否定し、教祖だけを全面的に信頼してしまう「マインド・コントロール」の手口が使われていることだ。
一般的にマインド・コントロールでは、初期の段階で「あなたはどこか特別だ」「隠れた才能がある」「いま人生の大きな転換期にある」などと言われ、まずはその人の優越感、自己愛をくすぐるとされる。そしてその気になりかけたところで、そんなあなたが思うように活躍できないのはおかしい、いまの状況は理不尽なのだ、と強調される。ふつうの場面では「いや、私の実力不足だからですよ」などと言うところだが、自己愛を刺激されている人は、「なるほど。私も前から自分が有名になれないなんて、世の中が間違っていると思ってたんですよ」などと答えてしまう。
そこまでいくと、「教祖がそんなおかしな状況を変えてくれますよ。解決のためには入信を」といったセリフに、簡単に納得し、同意するといったことも起きるのだ。
これは、「統一教会」がピークだった70年代に限ったことだろうか。考えようによっては、現在のほうが「私はどうも不当なほど低い評価を受けている」「うまくいかないのはおかしい」と、現在の状況に苦痛や理不尽さを感じている人は増えているのではないだろうか。
学生たちにきくと、ここまで露骨な勧誘ではなくても、「あなたには特別、眠っている才能がある」「磨けば本来の能力が発揮される」といった言葉をかけられ、つい高額な英会話教材やエステ回数券を購入してしまった、という話も出てくる。また最近は、大きなホールで開かれる企業の就職合同説明会で、「自分なんて落ちちゃうんじゃないか」と自信を失いかけているとき、その出口で「これさえ学べば就活にも勝てますよ」と声をかけてくるセミナーの勧誘員もいるそうだ。
カルト宗教や悪徳商法だけではない。「先行きが不安」「どうもこの社会で、私は十分に評価されていない」といった状況のときに、私たちが飛びつきがちなものに「強い政治的リーダー」がいる。いまの日本がそうだ、と言いたいわけではないが、「この人にすべてを託したい!」と検証する目を失って、誰かひとりの為政者に白紙委任したくなる社会は、やはり健全な社会とは言いがたい。何にせよ、安易な“救い”はない。そのことは忘れないようにしたい。