どうも、これは時代適合性喪失問題なのではないかと思います。今は21世紀です。ところが、アメリカの魂はまだまだ、20世紀の懐の中に置いてきぼりになっている。そのようにみえて仕方がありません。
アメリカの魂は、なぜ昨日の世界に置き去りになっているのかでしょう。それは、20世紀があまりにもアメリカの世紀だったからだと思います。特に20世紀の後半がそうでした。
20世紀の後半が始まろうとする時、いわゆる「パックス・アメリカーナ」の時代が始まりました。アメリカが繁栄すればするほど、世界的に世の中が良くなり、平和になる。それがパックス・アメリカーナという言葉に込められた感覚でした。第二次世界大戦によって日本もヨーロッパも焼け野原と化していた時、アメリカ独りがおおむね無傷で直立していました。その若き勇姿が、誰の目にも救世主にみえました。
そんなパックス・アメリカーナが1971年8月のニクソン・ショックとともに終焉すると、しばらくして、レーガノミックスという摩訶不思議な政策体系が出現しました。時のレーガン大統領(任期81~89年)の名を取ったネーミングです。いかに、当時の世界がレーガノミックスによる幻想のインフレなき高成長をもてはやしたことか。あれは80年代のことでした。そして、20世紀最後の10年の90年代にはいると、今度はITブームに乗ったアメリカの「ニューエコノミー」が世界の関心を集めることになりました。
しかしながら、アメリカの英雄花形物語もそこまででした。
21世紀の最初の10年が終わりにさしかかったところで、リーマン・ショックが起こりました。ここで、花形群像は、一転してカジノ金融に翻弄(ほんろう)される狂者の集団と化していたことが判明するのでした。
再び花形の地位にアメリカを連れ戻してくれる。その期待を集めて登場したのが、オバマ大統領でした。ところが、どうも、このところのオバマさんは20世紀回帰願望組に押され気味です。旗色が悪くていけません。こともあろうに、ヒトラー呼ばわりされたこともありました。
近頃では、カネの無駄遣いばかりしているという悪口が随分聞かれるようになりました。逆襲に出ようとするオバマ大統領の口ぶりは、次第に国粋主義的な過激さを帯びてきています。
オバマ氏への失望が、普通のアメリカ人たちを古き良き、そして手堅いアメリカのイメージに向かって先祖がえりさせている。そのような傾向が強まるアメリカの今日この頃です。その求心力となっているのが、かの「ティーパーティー」を自称する政治集団です。
それに加えて、昨今は金に裏打ちされたかつての強いドルの再来期待も、高まっている模様です。大真面目で、金本位制への復帰をとなえる論調がそれなりの市民権を得るようになって来ました。過ぎ去りしパックス・アメリカーナへの懐旧の思いが、アメリカの進路を狂わせ始めています。
日本でも、どうもこのところ、高度成長時代の夢をもう一度みたがる傾向が強まっています。
いずれもノスタルジー症候群ですね。これはいけません。現実直視と将来透視の邪魔になります。パイオニア精神の国であるはずのアメリカに、開拓魂は果たして復活するのでしょうか。大統領選挙の年である2012年に向けて、そこが注目されます。