米中通商摩擦がなかなか緊迫した場面を迎えていますね。
アメリカが本丸狙いで攻め込んでいます。中国政府の自国産業保護政策や知的財産権侵害。対中進出企業に技術移転を強要するやり方。これらは、いずれも産業技術上のアメリカの優位性を脅かさんとする大陰謀の産物だ。アメリカの目にはそう映ります。この大陰謀の本丸を潰す。今回の通商交渉に、アメリカはこうした構えで臨んでいます。
中国側にとっても、この辺りはまさに本丸部分です。中国経済は巨大ですが、それだけに脆弱(ぜいじゃく)な部分が多々ある。巨体をいつまでも支え続けてくれる技術基盤を、今のうちに確立しておきたい。成果を焦る思いも入り混じった執念を持って、自国産業の技術力強化に挑もうとしているのです。
この対峙の構図を見ていて、頭に浮かぶ言い方があります。それは「抗い難い力対不動の物体」というものです。どうにも抵抗出来ないような強い力と、どんなに強い力でも微動だにさせることが出来ない物体がぶつかり合ったら、一体どうなるか。抗い難い力があるのに、不動の物体が存在するとはどういうことなのか。不動の物体があるのに、抗い難い力が成り立つのはなぜなのか。これらのことを問い掛けているのが、上記の命題です。「矛盾」という言葉が示しているのも、同じ構図です。何でも貫く矛と何をもってしても貫けない盾が出合ったら、何が起こるのか。それが「矛盾」という言葉が我々に提示している謎です。
ドナルド・トランプという名の抗い難い力が、習近平という名の不動の物体に飛び掛かる。この絶対矛盾がもたらすものは何でしょう。それはカオスだと思います。混沌(こんとん)ですね。抗い難い力と不動の物体が出合ってしまえば、収拾がつかなくなります。埒(らち)が明かない。だから混迷に陥る。そうなってしまうと思うのです。
混沌は、既に始まっていると思います。「トランプの矛」と「習の盾」は、どっちも譲らない。睨み合いながら、関税引き上げ戦争を始めようとしています。そっちが上げるならこっちも上げる。より高くより高く。お互いにお互いの市場から商品を締め出そうとしています。このハードルの上げ合いの応酬が、世界的な混沌につながっていく。その様相が濃厚になってきました。
なぜなら、トランプの矛と習の盾がお互いに関税障壁を高くすると、それに伴う衝撃と痛みが世界中に波及するからです。中国がアメリカに輸出する製品は、その多くが日本や欧州などの非中国企業の製品です。「メイド・イン・チャイナ」ではあっても、「メイド・バイ・チャイニーズ企業」ではないものが多々あります。「メイド・バイ・チャイニーズ企業」ものであっても、その中には数多くの日本製あるいは欧州製の部品や素材が組み込まれていたりします。アメリカが中国向けに輸出する製品についても、同じことが言えます。
かくして、抗い難い力と不動の物体が出合ってしまうと、この矛盾がもたらす衝撃が、大きな混沌の波紋を生んで周りの全てをのみ込んで行くのです。トランプの矛と習の盾をどう引き離すか。それが目下の大問題です。WTO(世界貿易機関)に割って入って欲しいところですが、それは今のところ期待薄。矛盾は誠に厄介です。