最近、「マイナス金利の深掘り」という奇妙な言葉がはやり始めています。こういう変なフレーズは、一体どこから出てくるのか。誰が言い出しっぺなのか。いつも不思議に思います。そして、こういう得体の知れない言葉に限って、使われ始めるとあっという間に広まっていく。それが怖いなとも思います。
この言い方の意味するところは、要するに、今、日本銀行が行っているマイナス金利政策をさらに強化するということです。現在、日銀は民間金融機関が日銀に預けている当座預金の一部分について0.1%のマイナス金利を課しています。言い換えれば、その分について民間金融機関から0.1%の手数料を取っているわけです。「マイナス金利の深掘り」とは、この手数料を引き上げることを意味しています。世界景気の悪化にそなえるため、そして、アメリカやEU(欧州連合)の一段の金融緩和に足並みをそろえるためということで、日銀がこの「マイナス金利の深掘り」に踏み切る。このように取り沙汰されているのです。
マイナス金利という名の穴を深掘りすると、そこから何が出てくるのでしょう。お宝なのか、化け物なのか。筆者には、とうていお宝だとは思えません。現状においてマイナス金利の穴をさらに「深掘り」することは、化け物界に「深入り」することであって、下手をすれば人間界に帰ってこられなくなるかもしれない。そう思えてなりません。
日銀がマイナス金利政策を開始したことで、今まで起こってきたことは何でしょう。民間金融機関が自分たちの日銀当座預金に手数料がかかるのを嫌がり、そこからどんどん資金を引き出して貸し出しに回す。そんな行動がみられたでしょうか。それに呼応して企業がどんどん借り入れを増やして生産や投資を増やしてきたでしょうか。そのおかげで経済活動が活発化し、物価や給料が上がったでしょうか。
以上のいずれも起こってはいませんよね。実際に起こったことは何かといえば、二つのことです。その一が金融機関の収益悪化。その二が我々の預貯金金利の事実上の消滅です。
日銀が、長短金利をマイナス圏を含むとてつもなく低いゾーンに誘導しているおかげで、金融機関の貸出金利もいまだかつてなく低い水準に落ち込んでしまっています。金融機関としては、それに見合って自分たちの資金調達コストである預貯金金利も引き下げたい。出来れば、預貯金金利をマイナスにしたい。つまり、我々から預貯金の「お預かり手数料」を頂戴したいと考えている。ですが、今のところ、さすがにそれは出来ていない。そのため、融資ビジネスによる儲けがほぼ無いに等しくなってきました。
そして、まだ手数料こそ取られてはいないものの、我々の預貯金金利もまた、ほぼ無いに等しい状況になっています。あと一歩で、マイナス領域に踏み込みそうな気配です。それを恐れて預貯金を現金化する人々が増えてきました。
こんな有り様の中で「マイナス金利の深掘り」などを進めたら、どんなことになるのか。大不況という名の化け物を掘り当ててしまうのがオチでしょう。深掘り路線への深入りは踏みとどまって欲しいものです。ですが、どうもすっかりその気になっているようで、くわばら、くわばら。