歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
俊寛(しゅんかん)
平清盛への謀反「鹿ヶ谷事件」のとがで平康頼・丹波成経とともに鬼界ヶ島へ配流。終生帰郷のかなわなかった人物。赦免から外されると落胆し、温情で流罪を許されると狂喜乱舞する。最後は仲間のために自分を犠牲にして、島に残って孤独と闘う。変転する状況とそれに照応する心情を、近松門左衛門が巧みに描き出している。『平家女護島(へいけにょごがしま)』(1720年初演)。
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滝夜叉姫(たきやしゃひめ)
平将門の娘。妖術使い。古御所を訪れる武将を色香で味方につけ、亡父の遺願である天下横領をねらう。スッポンからドロドロとセリ出す傾城(けいせい)姿は、ろうそくの灯に揺らめいてこの上なく妖艶。六世中村歌右衛門屈指の当たり役。正体を見破られて使う蝦蟇(がま)の術は、同じく亡父の遺恨を晴らす天竺徳兵衛(てんじくとくべえ)と共通する。『忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)』(1836年初演)。
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仁木弾正(にっきだんじょう)
江戸初期に勃発した伊達騒動の首謀者、原田甲斐がモデル。妖術を駆使して悪事を働く相当なワル。忠臣、荒獅子男之助(あらじしおとこのすけ)の捕らえ損なった怪しい鼠がスッポンへ逃げ込むと、なんと仁木の姿に。煙の中をセリ上がって、面(つら)明かりに照らされながら、まるで宙を浮くように花道を引っ込む姿はなんとも蠱惑(こわく)的である。『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』(1777年初演)。
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政岡(まさおか)
乳母。跡目を継いだ幼君を、謀反人仁木弾正(にっきだんじょう)、八汐(やしお)兄妹から守るのが責務。「家庭より仕事」型。毒味役に立てたわが子が、目前でなぶり殺しにされても動揺できず、人去った後の大広間でたった一人ようやく母親に戻って涙する。仙台藩伊達騒動が題材の御家乗っ取り狂言。手ずから米をとぐ「まま炊き」が大きな眼目。『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』(1777年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】