歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
和藤内(わとうない)
中国における明朝復興運動の英雄、鄭成功がモデル。父は亡命した中国人、母は日本人というハーフを作者の近松門左衛門は、和(日本)でも藤(唐=中国)でも内(ない)としゃれて呼んだ。国家存亡の危機に両親とともに渡中し、国威発揚に貢献するという、外国を舞台にした歌舞伎でも珍しいエキゾチシズムあふれる作品。荒事的要素が強い。『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』(1716年初演)。
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八百屋お七(やおやおしち)
江戸の放火犯という実説を基に、多くの作品へ取り上げられた16歳の少女。実家が類焼し、駒込吉祥院へ避難した時、寺小姓の吉三郎と恋仲になる。家宝を紛失した主人とともに切腹の危機が迫る吉三郎を救うため、火刑に処せられると知りつつも無我夢中で火の見櫓(やぐら)の太鼓を叩く。『伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)』(1773年初演)。
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三人吉三(さんにんきちさ)
和尚(おしょう)吉三、お嬢吉三、お坊吉三。義兄弟の契りを交わした盗賊三人組。お嬢は弁天小僧同様女装している。金品強奪後にお嬢が「月もおぼろに白魚の」と厄払いをするセリフは、七五調を得意とする河竹黙阿弥ならでは。因果から逃がれられぬ複雑な運命の行方は、ぜひ通し狂言で見たい。『三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』(1860年初演)。
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お富・与三郎(おとみ・よさぶろう)
『切られ与三(きられよさ)』とも。総身の刀傷は略奪愛の勲章。相思相愛ながら仲を裂かれた二人は、命からがら生き延びて源氏店で再会。他人の妾に納まるお富へ、与三郎が投げかける「しがねぇ恋の情が仇」は名調子である。十一世市川團十郎の与三郎は匂いたつような色気で観客をとりこにした。『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』(1853年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 1】