小学校レベルでは、昨年4月20日から「家で学ぼうI」が始まり、2019年8月後半に始まった年度の最後の2カ月半の授業が、SEPが持つ2つの公共チャンネルで放送された。ただし、この時期は外出制限が厳しく、ロケやスタジオ収録ができなかったため、制作スタッフは自宅で脚本を書き、それをもとに国内外の教育テレビやYouTubeなどから映像を探して使用許可を得て、番組を編集していた。また、使えるチャンネル数が2つに限られていたため、1-2年生、3-4年生、5-6年生と、2学年ずつまとめて番組を制作し、放送した。
そして8月、民放の協力を得て、幼稚園から高校までの授業を計9つのチャンネルを使って放送することになって以来、SEPの仕事は一気に増えた。高校まで進学する子どもの場合は、大半が経済的にインターネットが使える環境にいるため、テレビを利用するのは一部の授業に過ぎない。それに対して、小・中学校の場合は、テレビで放送される「家で学ぼう」が、1年間の学びの基礎を担う。
「子どもたちが、テレビ授業をできるだけ身近なものとして理解できるよう、内容はあくまでも教科書に沿った基礎的なものにしました。教科書は、全国の子どもたちに無償で配られるので」
そう説明するのは、SEPの初等教育カリキュラムを担当するマリア・テレサ・メレンデスだ。
「テレビ授業では、教科書で説明されていることを、映像や実験など、より具体的な形で伝えています、そして最後に必ず、あとで先生や親に尋ねたり、話をしたりするよう、呼びかけます。そうすることで、学びを深めてもらうのです」(メレンデス)
「家で学ぼうⅡ」と今年1月から放送の「家で学ぼうIII」からは重要な役割を果たしているのは、その制作に関わる現役教師たちだ、とメレンデスは言う。
「Ⅱでは、約200人の教師が制作に参加していました。脚本作りはもちろん、スタジオでの番組収録にもです。現役の教師がテレビカメラの前に立つことで、授業らしくなりますし、彼らの経験が中身に反映されることで、子どもたちの学びがより確かなものになるのです」(メレンデス)
「世界で唯一の試み」とも言われる幼稚園から高校までのテレビ授業「家で学ぼう」は、まさにメキシコで公教育に関わる者の情熱と執念の賜物だ。
授業プログラムは、保護者対象(保育&特殊教育)、幼稚園、小学校、中学校、高校の5つに分かれており、それぞれ複数のチャンネルで時間帯をずらして放送されている。見逃すことなく、都合のいい時間帯に視聴できるようにするためだ。例えば、小学校なら3つの時間帯の選択肢があり、中学校なら2つの選択肢がある。
小学1年生の場合、一番早く始まる授業の時間帯は、朝9時から11時半までで、一番遅いのが、18時半から21時だ。各教科の授業は30分で、毎日5つの教科が教えられる。例えば、社会、算数、国語、英語、公民・道徳、という具合だ。中学2年生ならば、最初の授業は朝8時からで、こちらも1つの授業は30分。1日に6つの教科、例えば数学、国語、物理、公民・道徳、テクノロジー、体育を学ぶ。もう一つの時間帯は、18時半から21時半だ。
どの時間帯にも、同じ日ならば同じ授業が放送されるので、教科によって、観る時間帯を変えてもいい。ほかのきょうだいが観る授業との兼ね合いで、子どもは必ずしも連続して自分の授業を観られるわけではないからだ。家に1台しかテレビがない家庭では、家族全員の都合を考えて、授業時間を選ばなければならない。そこまで考慮した形で、番組時間割は作られている。すべての学年の時間割と放送チャンネルは、SEPのホームページ「家で学ぼう」で確認できる。