加えてスペインには、ユニークな方法で子どもたちに社会的連帯経済の精神を伝える学校が、数多く存在する。
カタルーニャ州バルセロナのある小学校では、3、4年生がちょっと変わった「時間銀行」の活動をしている。そこでは学年の初めにまず、全員がそれぞれクラスメートのためにできること・してあげたいことを、4つ挙げる。内容は特技や趣味、「誰かと一緒にやりたいこと」などだ。4つ決まったら、それを「やる方法」と「その際必要なもの」を書き出す。そのプランに基づいて、毎週1回、ホームルームの時間に、2人1組のペアで、互いに相手が示した4つの選択肢の中から選んだ活動を行うわけだ。これを1年間、クラス全員総当たりで実施する。
取材の日、子どもたちは教室や廊下で、ペアの相手とチェス、輪ゴムのブレスレット作り、ボクシング、皿回しなど、多種多様な活動を楽しんでいた。1年間、何かを一緒に行う時間を積み上げていくことで、クラスメート全員と知り合うことができる。その結果、クラス内には平等や協力、共感の精神が育まれ、いじめも起きないという。
時間銀行のほかにも、「児童・生徒協同組合」と呼ばれる活動を行う学校が、スペインに150校以上ある。その多くは、600以上存在する「教育協同組合」(教職員らが組合員の労働者協同組合)によって運営されている。
首都マドリード郊外にある学校では、小学6年生4クラスが、クラスごとに児童協同組合を運営している。子どもたちは、最初に労働者協同組合の原則や運営について学び、自分たちの協同組合の名称、定款、理事会、事業内容などを話し合って決める。その後、学校から資本金を借り受け(融資)、商品を生産。手作りしたブックマークやキーホルダー、手帳などを、校内マーケットで販売し、売り上げを国連難民高等弁務官事務所(UNCHR)に寄付する。「活動を通して、子どもたちは一人ひとりの存在の大切さと、皆で協力すればより大きな力が発揮できることに気づきます」と、校長は語る。
バルセロナのある中学校の生徒たちは、1学年全体でひとつの生徒協同組合を作り、卒業まで協同運営する。理事会のメンバーは定期的に集まり、実施事業(手作りお菓子の即売会、地域の年少者たちのためのお楽しみパーク開催など)の成果を精査して、組合員に報告。それに基づいて、総会で次の事業計画を立てる。この活動をサポートする教員は、「大人に頼らず、自分たちで民主的に協議して、人の意見も受け入れながら決断を下していくプロセスが大切です」と話す。
カタルーニャ州には、こうした児童・生徒協同組合の連合組織がある。州政府は、社会的連帯経済・協同組合局を通して3年間で1600万ユーロ(2023年8月現在のレートで約25億円)の予算をとって、彼らの活動を応援している。「未来の世代には、持続可能かつ公平で平等なビジョンを持って、何より“協力”を大切に行動してほしいものです」と、担当副局長は言う。
これらの実践は、子どもが、自分の考えを持ち、主体的に周りとコミュニケーションをとりながら、協力して物事を成すことのすばらしさを知る助けとなっている。こうした教育こそが、社会的連帯経済を担う、主体的で共感力のある市民を育てる。
民主主義を根付かせる
もう一つ、私たちが努力すべきことは、民主主義を根付かせることだろう。
冒頭に触れたリーマンショック後のスペインの市民運動で、人々が掲げたスローガンは「経済的支援を」ではなく、「もういい加減、真の民主主義を!」だった。その延長線上にスペイン、そして欧州における社会的連帯経済の発展がある。持続可能で民主的な経済システムを創らなければという信念と情熱は、民主主義を大切にする市民の間にしか生まれないからだ。