第一に、現在の「低賃金・長時間労働」を改善する必要があるだろう。特に長時間労働は、人間から広い視野で社会を見つめ、未来を考えて行動する力を奪う。ところが日本人の大半は、週のほとんどの時間を職場で過ごしている。これに対して欧米では、一般に人々が職場にいる時間は限られ、夕方以降は家族や友人など、職場以外の人間関係の中で過ごすのが日常だ。そこには人・暮らし・社会を多面的に捉えて考える時間と環境がある。私たちもそんな生活・労働環境を築く努力をしなければならない。
さらに重要なのは、社会的連帯経済とは正反対の理念に基づいている現在の「教育」を変えることだ。競争を強い、能力主義で人を選別する教育が変わらない限り、日本人は大人になるにつれて、知らず知らずのうちにすっかり経済至上主義の「資本主義人間」になってしまう。
この現状に危機感を抱く日本労働者協同組合連合会(労協連)は、各地の大学で協同労働や持続可能な地域づくりについて学ぶ「寄附講座」を実施。学生たちに社会的連帯経済の魅力を伝えようとしている。ワーカーズ・コレクティブも、若者対象のワークショップやインターンなどを行ってきた。だが、根本的な変化をもたらすには、行政を含む社会全体が、子どもを取り巻く環境と教育の中身を変える、より踏み込んだ行動を起こすことが求められる。
例えば、スペインの子どもは、基本的に授業のある時間帯にしか学校にいない。昼食は、学校給食か自宅かを選択でき、帰宅して食べる子も多い。課外クラブ活動はなく、放課後は家庭や地域で過ごす。それは協力や共感力など、社会的連帯経済で大切にされている市民としての力や価値観を養うために重要なことだ。
加えてスペインには、ユニークな方法で子どもたちに社会的連帯経済の精神を伝える学校が、数多く存在する。
カタルーニャ州バルセロナのある小学校では、3、4年生がちょっと変わった「時間銀行」の活動をしている。そこでは学年の初めにまず、全員がそれぞれクラスメートのためにできること・してあげたいことを、4つ挙げる。内容は特技や趣味、「誰かと一緒にやりたいこと」などだ。4つ決まったら、それを「やる方法」と「その際必要なもの」を書き出す。そのプランに基づいて、毎週1回、ホームルームの時間に、2人1組のペアで、互いに相手が示した4つの選択肢の中から選んだ活動を行うわけだ。これを1年間、クラス全員総当たりで実施する。
取材の日、子どもたちは教室や廊下で、ペアの相手とチェス、輪ゴムのブレスレット作り、ボクシング、皿回しなど、多種多様な活動を楽しんでいた。1年間、何かを一緒に行う時間を積み上げていくことで、クラスメート全員と知り合うことができる。その結果、クラス内には平等や協力、共感の精神が育まれ、いじめも起きないという。
バルセロナの小学校での「時間銀行」の取り組みで、ペアの少年にボクシングの手解きを受ける少女。(2022年11月)撮影:篠田有史
時間銀行のほかにも、「児童・生徒協同組合」と呼ばれる活動を行う学校が、スペインに150校以上ある。その多くは、600以上存在する「教育協同組合」(教職員らが組合員の労働者協同組合)によって運営されている。
首都マドリード郊外にある学校では、小学6年生4クラスが、クラスごとに児童協同組合を運営している。子どもたちは、最初に労働者協同組合の原則や運営について学び、自分たちの協同組合の名称、定款、理事会、事業内容などを話し合って決める。その後、学校から資本金を借り受け(融資)、商品を生産。手作りしたブックマークやキーホルダー、手帳などを、校内マーケットで販売し、売り上げを国連難民高等弁務官事務所(UNCHR)に寄付する。「活動を通して、子どもたちは一人ひとりの存在の大切さと、皆で協力すればより大きな力が発揮できることに気づきます」と、校長は語る。
マドリード郊外の学校で、小学6年生が運営する「児童協同組合」が開いた校内マーケットでは、子どもたちがお客に商品の説明をしながら、手作りの商品を販売していた。(2023年5月)撮影:篠田有史
バルセロナのある中学校の生徒たちは、1学年全体でひとつの生徒協同組合を作り、卒業まで協同運営する。理事会のメンバーは定期的に集まり、実施事業(手作りお菓子の即売会、地域の年少者たちのためのお楽しみパーク開催など)の成果を精査して、組合員に報告。それに基づいて、総会で次の事業計画を立てる。この活動をサポートする教員は、「大人に頼らず、自分たちで民主的に協議して、人の意見も受け入れながら決断を下していくプロセスが大切です」と話す。