日本においてもゆっくりとではあるが、市民による民主主義の実践は広がりつつある。例えば、東京都杉並区では、2022年6月の区長選挙で、市民主導の選挙戦を通して「ミュニシパリズム」を掲げる岸本聡子区長(国際政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所」元研究員)が誕生した。ミュニシパリズムは、地域において市民が主体的に政治に参加し、自然環境や公共サービスなど、市民生活に不可欠かつ重要なものを「共有財(コモン)」として自治体が管理する政策をとる自治の実践だ。それを支持する市民が、沼津市、京都市、大阪市などでも行動を起こしている。そこにはむろん、「社会的連帯経済の推進」も含まれる。
この流れが全国各地へと拡がれば、日本社会にも民主主義の精神が根付いていくことが期待できる。すでに存在する社会的連帯経済の実践者たちがミュニシパリズムの推進者となり、民主主義に基づく地域経済を創り上げる。そんな動きが各地で起きることが、世界的な運動との連携につながるだろう。
「もうひとつの世界」の当事者になる
世界はすでに、資本主義経済に代わる「もうひとつの経済」としての社会的連帯経済が、持続可能なよりよい世界を創るためには欠かせないことを理解し、行動している。その証拠に、2022年6月に国際労働機関(ILO)が、2023年4月には国連総会が、社会的連帯経済の推進を決議した。
これらの決議が行われた背景には、まず1990年代後半に起きた「反グローバリズム運動」がある。その流れを受け、2001年にブラジルのポルトアレグレで開催された第1回「世界社会フォーラム」では、新自由主義的グローバリゼーションがもたらした経済格差や気候変動などの問題を、地球規模の連帯で解決しようと試みる世界的なネットワークが生まれた。そのスローガン「もうひとつの世界は可能だ」の「もうひとつの世界」の土台には、社会的連帯経済がある。2002年には「社会的連帯経済を推進する大陸間ネットワーク(RIPESS)」が誕生し、各大陸のネットワークと連携して、世界の社会的連帯経済推進運動を牽引してきた。それらの運動の努力の結果、国連が動いたのだ。
日本でも、2018年4月には「日本協同組合連携機構(JCA)」が創設され、異なる協同組合間のネットワークを駆使した活動が広まりつつある。また、社会的連帯経済に関わる実践者・研究者たちも、「社会的連帯経済推進フォーラム」を設立し、当事者をつなぐネットワークを築こうとしている。実は私自身も、そうした動きを後押しすべく、法政大学の伊丹謙太郎さんやスペイン・バレンシア市在住の社会的連帯経済研究者・廣田裕之さんらと共に、社会的連帯経済ポータルサイト「つながりの経済」を運営している。
今こそ私たちは、社会的連帯経済の「理念」の下、世界の人々と共に「もうひとつの経済」を創る運動に参加し、「もうひとつの世界」の当事者となることを目指そうではないか。世界の未来は、私たちの連帯を必要としている。私たちの描く未来が、「もうひとつの世界」と重なる時、「希望を胸に生きる未来」が現実となる。
・社会的連帯経済推進フォーラム
http://sse.jp.net
・社会的連帯経済ポータルサイト つながりの経済
https://sites.google.com/view/tsunagari-economy/
・社会的連帯経済を推進する大陸間ネットワーク(RIPESS)
https://www.ripess.org/