お菓子やジュースで気を引いて、次は「あの辺りで敵が来ないか見張っていてくれないか?」と、ちょっとした仕事を頼む。そうやってプンテーロ(縄張りの見張り役)に仕立てれば、あとは武器の使い方を教え、恐怖心を取り除くマリファナを与えて、本物のギャングに育てるだけだ。その手に乗せられてしまったら、もう抜け出せない。未然に防ぐことが肝心なのだ。
「この間など、近所に住む12歳の少年が、『おばさん、携帯電話欲しいって言ってたけど、これ、100レンピーラ(約450円)で買わない?』と、スマートフォンを持ってきたんです。どこで手に入れたのか聞くと、『学校のビンゴ大会で』と答えましたが、明らかに盗んだものです。私はすぐにその子の母親のところへ行って、危ない道に足を踏み入れないよう注意した方がいいと、アドバイスしました」
周りに気配りをする余裕ができ、一歩ずつ前進しているジェシカだが、ギャング経験者の多くがそうであるように、時々、精神不安定になり、麻薬に手を出してしまうことがある。過去の体験から生まれたトラウマや不安のせいだ。とはいえ、今の彼女には、そこから抜け出すための信頼できる助っ人がいる。
「つまずいた時は、すぐにJHA-JAを、ジェニファーを頼ります。そしてもう一度、立ち上がるんです。間違いに気づいて、それを認め、再挑戦する。これしかありません」
そう話すジェシカを、ジェニファーが母親のような顔で見つめていた。
インタビューの翌日、ジェシカは私たちのために、「タマーレス」と呼ばれるトウモロコシを材料にした粽(ちまき)のような食べ物を作ってくれた。料理が好きで、タマーレスなどの伝統的な庶民の料理を作っては販売し、生活費を稼いでいるという。トウモロコシの自然の甘みが生かされていて、なかなか美味しい。
味付けの上手さに感心していると、ジェシカが口元を緩めて、こう言った。
「いつか自分の店を出せたらと、夢見ています」