高い危機対応力を発揮した社会的連帯経済は、パンデミックの間、特に食品生産業、農業、漁業、医療分野において、業界全体を牽引する働きをしたと、カルロスは言う。一般企業・事業主と異なり、安価な輸入材料・品物に頼ったり、移民の季節労働者に依存したりしていない分、どんな状況下でも品とサービスを継続的に提供することができたからだ。
「社会的連帯経済においては、様々な事業規模の企業や協同組合すべてに共通して、レジリエンス(回復力)とイノベーション力の高さが証明されました。それは、パンデミック後の時代にも大きな意味を持つことになるでしょう」
カルロスは確信を込めて、そう言った。
次世代の主役へ
欧州連合(EU)は、パンデミックからの復興計画のなかで、「ネクスト・ジェネレーションEU」という、約8000億ユーロ(約100兆円)の復興基金を用意している。これは、単なる経済回復ではなく、気候変動対策やデジタル革新、医療革新、多様性の尊重といった目標を掲げた、未来への経済・社会変革計画だ。
「この計画のなかで、社会的連帯経済は重要な役割を担っています」
と、カルロス。パローマも、こう言い添える。
「社会的連帯経済の企業や組織は、民主的かつ柔軟性と透明性が高く、ジェンダーを含むあらゆる側面において公平です。競争力もあるが、何より人と環境を大切にしている。それを魅力と感じる若者の参加が今、増えています。社会的連帯経済は、次世代の経済の主役なんです」
スペイン政府も、2021年、社会的連帯経済推進のための年間予算を、430万ユーロから1050万ユーロ(約13億6500万円)に増額。EUにおける社会的連帯経済推進の先頭に立つ。
「コロナ後の世界では、ニュー・ノーマルではなく、『もうひとつのノーマル』を築かなければなりません」
そう強調するパローマとカルロスは、単に「コロナ以前と違う」のではなく、「真に豊かで持続可能な」日常を創ることを訴え、社会的連帯経済こそが、その軸になると考える。
パローマが言う。
「私たちは、『巨大多国籍企業』というゴリアテと戦うダビデのようなものかもしれません。しかし、今必要とされている経済が、すべての人に尊厳ある暮らしを保障する経済、社会的連帯経済であることに、間違いはありません。UN(国際連合)もILO(国際労働機関)もそう考え、EUの政策もその視点から作成されているのです」
2011年、世界で初めて「社会的経済法」(社会的連帯経済を推進する法律)を成立させたスペイン。そこには、30年以上かけて、行政や教育現場などと連携し、市町村レべルから、人々に社会的連帯経済の枠組みで起業し働く意義やノウハウを広めてきたCOCETAやREASのようなネットワーク組織が存在する。そして、彼らと行政が連携する仕組みと文化を築いてきたCEPESの存在も。その地道な取り組みが、パンデミックを経て、今、社会的連帯経済を時代の中心へ推し出そうとしている。その先には、つながりが支える「もうひとつの社会」が見える。
社会的連帯経済
既存の資本主義経済とは異なる、人の暮らしと環境を軸にした経済。主な担い手は、労働者協同組合(Worker Cooperatives)をはじめとする様々な協同組合やNPO、フェアトレード、有機農業、地域通貨などを運営する人たち。
補完通貨
地域通貨など、「お金」とは別に「価値あるもの」の社会的循環を促すために使われる通貨。