と、中心メンバーの1人、青木沙織さん(43)。電話で子どもの声に耳を傾けることから始まった活動は、地域の子どもたちともつながり、その声を様々な形で表現する機会を生み出していく。そして、大人と子どもが一緒に、子どもの権利が尊重される持続可能な社会をどう創っていくかを考え、行動するための地盤を築いてきた。
「私たちが目標として掲げてきた『江戸川区子どもの権利条例』が、昨年やっと制定されました。その過程において、区主催の中高生から意見を聴くワークショップを任されたんです。20人ほどの中高生が参加してくれて、2回開催しました。そこで上がった声を反映する形で条例ができたので、今度はどうやって周知していくかを考えているところです」
青木さんは、楽しそうにそう話す。
「松江の家」に集う仲間たち。中央は大河内さん。その右隣は「足温ネット」事務局長の山﨑求博さん。左端が「江戸川子どもおんぶず」の青木沙織さん。撮影:篠田有史
市民社会を育む
江戸川区に寿光院が所有する土地や建物では、ほかにも様々な市民団体が共生しながら活動している。
「松江の家」から近い「ほっと館」は、NPO法人「ほっとコミュニティえどがわ」が、寿光院の土地に建設して運営する高齢者住宅。建物1階は、地域の人たちも利用できるコミュニティレストラン「ほっとマンマ」で、毎週土曜日には近隣の高齢者のためのデイサービスに、月1度は子ども食堂に利用されている。2階と3階が住宅で、「施設か、自宅か」ではない高齢者の新しい住まいの選択肢を、地域に創り出している。
桜の時期の「ほっと館」。1階には、コミュニティレストラン「ほっとマンマ」があり、2階と3階が住宅になっている。撮影:篠田有史
「ここでは介護度や年齢による制限はありません。最後まで自分らしく生きたい、いろんな人と関わりたいという人が暮らしています。地域のお祭りやサークルに参加している方や、ここで麻雀教室を開いている方もいますよ」
と、スタッフ。現在、平均年齢92歳の女性9人が住む。もう1人、「同居人」と呼ばれる35歳の男性も入居している。スタッフがいない夜間は、若い住人の存在が、心の支えになるからだ。若者にとっても、仕事からの帰りが遅いと夕飯の差し入れをしてくれるおばあさんがいたりと、心和む環境が生まれている。
「松江の家」の南西には、寿光院がNPO法人「愛菜会」のために建てた自立支援施設「あみたハウス寿・光館」がある。そこでは5人の女性が、スタッフのサポートを受けながら生活している。皆、江戸川区内の作業所へ働きに通っており、交代で働くスタッフ6人も地域の住民だ。スタッフは言う。
「ここは、コミュニティとのつながりを保ち、出身地域の中で働き暮らすことができる施設なんです」
そこにも大河内さんが語る「ヴィレッジ」や「共同体」の思想が息づいている。
自立支援施設「あみたハウス寿・光館」の一室で暮らす女性。住宅棟は2階建で、風呂や食堂は、スタッフがいる別棟にある。建物はすべて天然素材だ。撮影:篠田有史
そのほか、東小松川地区にあるマンションの2階には、「小松川市民ファーム」と名付けられた寿光院所有の部屋がある。足温ネットや未来バンクなど、大河内さんが運営に参画する団体を含む5つのNGO・NPOが、事務所を置く。
「市民自らが地域の課題に気づき、対応し、制度を変えて、社会を形作っていく。あるいは世界の課題に取り組んでいく。そんなスタンスの市民団体ばかりです」
と、大河内さん。見樹院と寿光院の周りには、多様な市民の社会活動が生まれ、つながり、広がっている。それを支え、ともに豊かな市民社会を築いていくのが寺の役割だと、大河内さんは考える。
「お寺とは、住職も檀家も皆が協働して、地域社会に参加する仕組み。市民社会の一部です。そこでは、『いろいろな人の参加』が重要になります。市民社会全体においても、同じことが言えるのではないでしょうか」
様々な市民が主体的に参加し、豊かな社会を創造するという精神は、ブッダの教えに通ずるところがあるという。