さっきは営業中だった……
お店の人は片付け中で、ごめんなさ〜い、と元気よく返事をしてくれた。1人最後の客が洋食を食べていた。落胆した。最初からここに決めておけばよかったのだ。その時は準備中ではなく営業中だった。
さあどうする。体力は削られていた。ガラス張りでいい感じの飲み屋はあった。あそこにしようか。ちょっとお洒落すぎるけど、行かないよりはいい。綺麗めの夫婦がワインを飲んでいた。女性2人組は談笑していて、自分1人がカウンターにいる絵は、やはりちょっと違った。すーっと店の前から離れて、仕方なくコンビニで弁当でも買って帰るか、そう思い自転車を走らせた。一度通った道をまた走る。たしかコンビニはこっちの方だったはずだと走っていると、見落としていたのか、1軒の飲み屋があるではないか。やっているのかやっていないのか、明かりが微妙についていた。ただ、しっかりと、暖簾がかかっている。これはやっているだろう。少し高そうな店だが、殺されることはないだろう。そんな気持ちで中に入ると、おや? という顔をされた。おそらく馴染みの客しか来ないのだろう。体調がイマイチなので、ご飯だけにしようと思ったが、せっかくなのでお酒と、おすすめのものを出してもらうことにした。疲れ切っていたし、諦めていたが、まさかのここが、名店であった。
透き通った大根のつま
カウンターのひとつ空けた隣の席にいた女性が、よくここ見つけましたね、と言ってくれた。そうなんですよ、これが私の仕事なんです、と言いたくなったが、ただの奇跡であった(あとで地図を見たが、この店は載っていなかった)。色々なものをいただきながら、大将と女将さんと話していると、ジャージ姿の若い女性が入ってきた。女性は常連だった。しばらくすると、女将さんが奥から大きなおにぎりをふたつ、運んできた。女性は、自分は、自分は、と体育会系の喋り方をしていた。どうやら近くのサッカーチームの選手らしい。あるいは大学生だったか。細かくは覚えていないが、ここによく、夜ご飯を食べに来ているようだった。お酒は飲まないらしい。なんだかあたたかい店だなと思った。
大将の金言、刺さる
すっかり気分も良くなり、体も元気になっているようだった。体と心というのは不思議なものだ。お礼を言い、記念写真を撮り、店を後にした。また来たい、そう思った。大将はけっこうなお歳と言っていた。