リオの「ホタル」って知ってる?
あなた歌うと合うと思うな。
弘前のスナックで勧められたのは知らない歌だった。
秋田、盛岡、弘前、と続けてライブをした。
2022年、4年ぶりに出したCDアルバムをたずさえて、色々な街を歌い歩いていた。
東北のプロモーターに声をかけ、仙台でも出来ないですかね、と聞いたところ、マエケンさん何言ってるんですか、東北6県全部回りましょうよ、と熱い返事をもらい、前半3県、後半3県と回れることになった。秋田、盛岡、弘前はその前半3県にあたる。
秋田は大雨だった。ライブハウスはビジネスホテルの地下にあったのか、ホテルの脇の階段から地下に降りた気がする。店長のお母様が代理で店長を務めていて、ご高齢だったが奮闘しておられた。ご自身で描かれたイラストを缶バッジにしていて、それを記念に買って帰った。自分の集客力のなさでお店に迷惑をかけてしまったが、またやらせてもらいたいと思った。ライブハウスのホームページを見ると、平日はほとんど予定が入っていない。コロナ禍ということもあったかもしれないが、また必ず、と思った。
プロモーターSさんの車で、大雨の中、盛岡へ向かった。学会か何かで秋田のホテルが埋まっていて、しかたなく盛岡で前泊ということになった。途中コンビニに寄ったくらいで、Sさんガンガン運転してくれた。無事盛岡に着き宿の近くで軽く酒を飲み、夜も遅いので宿に戻った。
翌朝盛岡は快晴であった。6月下旬、暑い。最近は6月下旬に暑さのピークが一度来る、気がする。会場入りまで時間があるのでぷらぷらしたかったが、暑くて無理だった。少し歩き回って1軒の茶店を見つける。カプチーノ詩季。完璧な佇まい。ここはやはりカプチーノだろう、ということでカプチーノとトーストセット。小さなグラスにオレンジジュースまで付いている。ありがたい。いや、携帯写真を見て思い出した。コーヒーでモーニング食べて、そのあとカプチーノだろう、ということでカプチーノとリーフパイを頼んでいるのだ。リーフパイがおすすめと書いてあったのだろう。きっと。モーニングの卵がこれまたおしゃれで、アルミカップにゆで卵半分、そこにハムのせてマヨかけて、軽く焼いてある。粋だね。もう携帯写真では画像が緩すぎて、詳細はわからないが、覚えている。こういうの嬉しいよね、と思った。
それから暑いけれど歩いたのだった。じゃじゃ麺を探して歩いている。携帯の画像が覚えている。行き当たりばったりでここだろうというところに入る。これもまた大正解であった。それから宿に戻り支度をしてタクシー拾い会場入り。会場は岩手県公会堂の小さな部屋。古い建物、良い響き。建物で歌が変わる。建物も木や石や、反応するのだからそれはそうだ。お客さんの拍手がダイレクトに伝わってくる。拍手も音楽だろう。そりゃそうだ。無事ライブ終わりようやく秋田の分も打ち上げ。プロモーターSさん、食べログでいい店を探すのが得意だという。点数とかではなく、なんとなくわかると言っていた。自分は歩いて店構えでピンとくるかどうかだから、違うが、それも良いなと思った。誰かと旅するなら、違う道に逸れてみるのも良い。結果は名店だった。疲れていたのですぐに店に入れて助かった。
翌日は青森県の弘前へ移動。朝車に乗り込み、途中蕎麦屋に寄り会場へ。盛岡からの助っ人Yさんは競馬好きだった。車の中で競馬の話をした。会場に入り楽屋でも競馬の話。仕舞いには準備を終えたSさんも馬券を買うという。リハを終え、自分のワンセグ携帯でTV中継を見る。結果は全員外れだ。ライブは燃えた。緊張感のあるハコで、まだ出来てそんなに経っていない新しい空間だったからだろうか。歌も飛んでいく場所を探して夢中だった。それからSさんYさんと3人で飯を食べた。そういえば秋田、盛岡、弘前と、7、8年前にライブで呼んでくれた主催者がそれぞれ来てくれた。それはとてもありがたいことだった。こんな細々と活動している人間をまず覚えてくれていたというのがすごい。次はあまり間を開けずに行きたい。そう、3人で飯を食べた後、1人になり街をぷらついた。弘前の夜。雨が降った後の路地は濡れていて、ネオンが艶っぽく輝いていた。3日間喉も酷使したし、まあ明日も移動するから、適当に切り上げようと、最後スナックに1軒だけ寄った。そこで冒頭のやりとりがあったのだ。
自分が何を歌ったか覚えていないが、カウンターの隣の隣にいた常連のおねえさんが、あなたリオ知ってる? と聞いてきた。いや、知らないですね。あらそう。えーっとこれこれ、とリモコンを渡してくる。画面は履歴画面で、もうすでに歌ったのだろうか、Rioの「ホタル」という曲が表示されている。もう一度おねえさんが歌ってくれたか、記憶は定かではないが、どうしてこの曲が自分に合うと思ったのだろう。そういうのはよくわからないが、面白い。声で思ったのか。顔で思ったのか。体全体の雰囲気で思ったのか。