ガラケーポッケに突っ込んで
旅すりゃ思い出増えていく
あの街この街すれちがい
すれたぶんだけ歌になる
海に行けば海の歌
山に行ったら山の歌
あの娘に会ったらそれまでよ
今日もガラケー 旅日記
この「ガラケー旅日記」の青森の回に登場した「フォーション」。その喫茶店が歌となって収録されたアルバム『営業中』が、今年の夏にリリースされた。8枚目のアルバム。最初のアルバムが2007年だから、17年で8枚。のんびりな活動ペースだ。自分ではヒーヒー言いながら作ってはいるけれど、ゆっくりなのかもしれない。
歌にしてやる歌にしてやる、と思っていると案外歌にはならず、ホッと一息ついて、喫茶店の窓辺から外を眺めたりしていると、ぼわんと何かが漂い出す。少しSFチックに、歌が漂い出す。夢、そう、歌は夢なのかもしれない。
アルバムを作っている間は中々旅に出られない。ようやくアルバムが完成して、発売して、旅に出ることができる。7月末に発売して、さっそく一発目のライブが広島であった。
8月16日、広島でライブが決まっていた。翌日は松山の道後でライブ。それは誘ってもらったストリップ劇場でのイベント出演だった。数日前から台風のニュースがあり、移動日当日に関東に直撃しそうな予報円。なんとなくイヤな予感がして、前乗りすることにした。お盆期間は今年から指定席のみの新幹線「のぞみ」。夜遅めの列車は予約でいっぱいだったので、そのひとつ前の列車で向かった。
8月15日の夜、広島に着いた。深夜23時を回っていた。広島駅は大きな工事中で、タクシー乗り場までけっこう歩いた。タクシーに乗り込んで、大きな工事中なんですね、と話しかけると、運転手さんは不満そうに色々話してくれた。「広電の好きなようにやられちゃってますよ、まったく。今さら路面電車の線路なんて作って。タクシーはどんどん走りにくくなってますよ」
路面電車の好きな自分にとって、これはどう返したら良いものか、とりあえず自分の考えは置いておき、話を聞くことにした。色々な立場の人がいるんだなと、疲れた頭で考えた。タクシーは宿に着き、丁寧に荷物を下ろしてくれた。さあ明日はライブだ、寝よう。
翌朝早く目が覚めたので、ちょっと歩くことにした。猛暑日だったが、ペットボトルの水をバッグに入れ、宿を出た。ぷらぷら歩いているとわりと近くに平和記念公園があった。
海外からの観光客もいる。遠くに原爆ドームが見えた。久しぶりに見た。昔々その昔、二十歳の頃、8月15日に広島にいたことがあった。一眼レフのカメラをぶら下げ、モノクロのフィルムで原爆ドームを撮っていた。近くではナイターが始まる音がした。野球場が近くにあったのか。夕暮れ時、1人の女が声をかけてきた。フィルム、余ってる? 赤い髪の女だった。フィルムは大量にあった。カラーのもあった。ありますよ、と答えると、ひとつちょうだい、ときた。ウブな私に下心はなかった。タイプでもなかった。フィルムを渡し、その女とは離れて、また写真を撮った。暗くなってきて、写真を撮るのはやめた。するとさっきの女が近づいてきた。さっきのお礼、したいんだけど、お好み焼きでも食べに行かない、と……。
あれは夢だったのか。もう25年も前のことなので、夢もうつつも、あまり変わりなく……。
近くに観光案内所があったのでその建物に入り少し休憩した。2階に上がると喫茶スペースもあったので、アイスコーヒーともみじ饅頭をひとつ買い、窓辺の席に座りドームを眺めた。川にかかる橋を大勢の観光客が渡る。観光かー。観光って何なんだろうなーとぼんやり考えた。
店を出て、ドームの近くまで行く。ぐるっと一周して眺めた。蝉が強く鳴いていた。関東は大荒れの天気だろう、ただ広島は晴れていた。新幹線は終日、東京-名古屋間は運転休止とのこと。前乗りで正解だった。慌ただしく東京を出てしまったので、準備が不十分だった。早めに宿に戻って曲順を練りたい。ドームから離れて、うどんを食べ、宿に戻った。