2025年7月27日、「全国進路指導研究会」(全進研)が主催した、「全進研夏のセミナー2025」に参加しました。全進研は1963年の設立以来、子ども・若者の「学ぶこと」「生きること」「働くこと」をテーマに、進路指導・進路教育の実践と交流を行ってきた民間教育団体です。
年に4回開催される全進研セミナーの、今夏のテーマは「『働くこと』が『生きること』につながらない 今日の若者の苦悩と展望~スキマバイトの実態と背景から考える」でした。スキマバイトとは、スマートフォンのアプリを介してマッチングされた求職者と企業が、単発かつ短時間の雇用契約を結ぶ働き方のこと。この、今話題のスキマバイトを取り上げることとなったのです。
同セミナーの最初のプログラムは、私の講演「若者・学生の働き方をめぐって ~今日の課題」。本連載第65回「スキマバイト・闇バイトに追い込まれる若者たち」の内容を踏まえながら、2013年の「ブラックバイト」の発見からブラックバイト出現の社会的・歴史的背景を考察した後、現在大きな話題となっているスキマバイトの登場と拡大について検討しました。
続いて、東京新聞の話題の連載記事「スキマバイトの隙間」(2024年12月7日~)の取材に取り組む中村真暁記者からの報告もありました。中村記者はスキマバイトを自ら体験する潜入取材を行い、その契約形態の曖昧さや不透明さを明らかにし、スキマバイトの実態が偽装請負(違法行為)である可能性を記事で指摘してきました。
また、中村記者らはスキマバイトで働く若者への取材も試みます。以前、生活困窮問題を追う中で取材した、食料支援の炊き出し現場で出会った人々の中からは、スキマバイトで働いている人を見つけることはできませんでした。貧困問題に取り組んでいるNPO法人「トイミッケ」(東京都豊島区)の佐々木大志郎代表理事へのインタビュー取材でも、「スキマバイトで働いている人は、炊き出しには来ないよ」と言われたそうです。
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中村記者はその後、スキマバイトで働くYさん(26歳)の取材に成功します。彼はスキマバイトで働きながら、ネットカフェや公園で寝泊まりする生活を続けていました。月収は8~10万円程度で、就職活動を行ったり、自立生活を送ったりする余裕はありません。また、他人との交流はほとんどないことも分かりました。厳しい生活を送りながらも自分自身に厳しい見方をしているYさんへの取材を通して、若者の間で「誰のせいでもない」「自分のせい」という「自己責任論」が蔓延していることを痛感したと中村記者は言います。自己責任の強さが「炊き出しに来ない」ことにつながっていますし、スキマバイトの劣悪な労働条件を改善することをも妨げているのです。
前述したNPO法人トイミッケでは、住まいを喪失した人に非常食やホテル宿泊券などを入れた「緊急お助けパック」を配布する、「せかいビバーク」という取り組みを展開しています。中村記者が佐々木代表に取材したところ、せかいビバークを利用したことで相談につながった人の多くが、スキマバイトに登録していたとのことでした。
同連載記事「スキマバイトが承認欲求を『ハックする』 困窮者との親和性 東京を半年『漂流』した26歳男性が語ったこと」(東京新聞、2025年2月25日)によると、佐々木代表は困窮状態にある人はスキマバイトと親和性が高いこと、そこには仕事直後に給与が「即入金」されることに加え、他人との関係づくりが苦手な人たちにとっては職場で継続的な関係を築く必要がないスキマバイトの働き方がフィットするのだろうと分析。さらに利用者のほとんどが単身で、社会ともつながっておらず、「自己責任論」を強く内面化している人が多いとのことでした。そんな中、〈労働だけが自己評価の基準〉になっており、就労後に労働者が評価されるスキマバイトは、〈自己承認欲求をハック(うまく利用)して働かせる仕組み〉となっていると語ったそうです。
中村記者からの報告は、スキマバイトの問題性に加えて、それが貧困かつ雇用不安定な若者たちの気持ちにある面ではフィットし、広く受け入れられている状況をリアルに伝えてくれる内容でした。
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セミナーでは全進研の世話人である中村岳夫さんから、スキマバイトについての現役大学生のコメントも多数報告され、その内容もとても興味深いものでした。特に目立ったのは、スキマバイトに賛同する意見です(以下、中村岳夫資料「学生コメントから考える どちらかというと賛成」より抜粋)。
「自分の都合に合わせて働く時間や場所を選べるため、学業や他の活動と両立しやすく、ライフスタイルに合わせた働き方が可能です。実際に友人がスキマバイトを利用しており、授業の合間や急に空いた時間を有効活用できる点をとても便利だと話していました。また、さまざまな職場や業務を経験できることで、視野が広がり、自分に合った仕事を見つけるきっかけにもなります」(大学生Aさん)
「特に魅力的なのは、空いている時間に合わせて自由にシフトを選べることです。授業や課題、サークル活動などでスケジュールが変わりやすい学生にとって、固定シフトではなく、その都度働く日を決められるのは非常に便利だと感じます。また、給与面でも即日払いに対応している仕事が多く、急にお金が必要になったときにも対応しやすい点も魅力のひとつです。特に月末やテスト期間後など、短期間で集中して稼ぎたい時には、非常に利用しやすい働き方だと言えます。このように、スキマバイトは現代のニーズに応える柔軟な働き方であり、上手に活用すれば、日常生活の中での経済的自立や、働くことへの意識の向上にもつながると感じます」(大学生Bさん)
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どちらの学生も、スキマバイトについて賛意を表しています。このようにスキマバイトを支持する大学生の割合は高く、報告者によれば学生のコメントを「どちらかというと賛成」「どちらかというと反対」の二つに分類すると、「どちらかというと賛成」が全体の76%に達したとのことです。実に4分の3以上の学生が、スキマバイトを支持していることになります。
さらにコメントを丁寧に読むと、重要なことに気がつきました。
Aさんのコメントには「自分の都合に合わせて働く時間や場所を選べるため、学業や他の活動と両立しやすく、ライフスタイルに合わせた働き方が可能」とあり、Bさんのコメントにも「特に魅力的なのは、空いている時間に合わせて自由にシフトを選べること」とあります。ここで思い浮かぶのは、ブラックバイトとの違いです。
13年、私が「学生であることを尊重しないアルバイト」のことを「ブラックバイト」と名づけ、社会問題として提起しました。このブラックバイトの特徴は、学生生活とアルバイトとの両立不可能性です。従来のアルバイトは学生生活との両立が比較的容易であったのに対し、ブラックバイトは学生でありながら職場の「基幹」労働を担わされるため拘束力が強固で、気楽に休んだり辞めたりすることが困難となりました。