高卒就職者が就職後に大学・専門学校へ進みたくなった場合に、進学しやすくする体制を整えることも重要です。在学中は学ぶことにあまり意欲がなかったけれど、卒業して社会へ出ると「もっと学んでおけばよかった」という気持ちが湧くのはよくあることです。職場や社会での経験から、問題意識や学ぶことへの意欲を持つ人々が大勢います。そうした若者を積極的に受け入れるのは、大学・専門学校の教育にとっても望ましいことだと思われます。学費を引き下げ、給付型奨学金を利用できる条件枠を外して、年齢に関係なく大学・専門学校で学びやすくすべきです。高齢化社会に向けた労働市場改革とセットで進められれば、日本社会を強固に縛っている「年齢主義」の解体にもつながるでしょう。
それから、高卒就職者に対するサポートの充実です。大卒以上の就職者との雇用格差を埋めてゆくには、高校在学中から就職希望者に「ワークルール教育」(働くうえでの労使間の法的な決まりごと、規範、権利、義務などを全般的に学ぶこと)の充実をはかる必要があるでしょう。というのも高卒就職者は年齢が若く、社会経験も少ないことから労使関係で弱い立場に置かれることが多々あります。雇用者から提示された条件やルールに「少しおかしいな?」と思っても従ってしまう危険性は、大卒以上の就職者よりも高いと思われます。
現在、高校でのワークルール教育は残念ながら必修化されていませんが、労働法の専門家、弁護士、労働基準監督署などの協力を得て「社会で働くために知っておくべきこと」を教育することが、高卒就職者を守ることにつながります。将来的には、ぜひ必修化を目指してほしいところです。
そうして社会全体でも高卒就職者への支援を強化すべきです。国や自治体は、高卒就職者に対して不利益な扱いをしないよう、雇用する事業所への指導や教育を積極的に行うことが求められます。明らかに劣悪な待遇を行っている事業所や雇用主には、厳しい罰則を課すべきです。労働組合も高卒就職者向けの相談窓口を積極的に設置し、彼らの声を拾い上げることで待遇改善につなげる活動を広げていただきたいです。
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最後に、新聞やテレビなどのメディアにお願いです。高卒者求人倍率「過去最高」というニュース報道だけで終わらせず、「その後」を追跡取材してください。
24年春に就職した彼らが、きちんとした待遇を受けて定着できたか? 職場でのキャリアアップはできているか? 転職を希望した際に正規雇用の受け入れ先はあるか? 大卒以上の就職者との賃金格差はどう推移しているか? 高卒で就職しても結婚や子育ては問題ないか? 就職時点での求人数や倍率にだけ注目するのではなく、高卒就職者がその後、どのような職業人生やライフコースを歩むことになるのかを正確に捉えることによって、高卒就職者の置かれている社会的位置や課題が見えてきます。
高卒後に大学・短大・専門学校へ進学する人が8割以上を占める現代の日本では、高卒就職者がノン・エリートかつ少数派であることは間違いありません。そうした彼らがどのような人生を送れるかに、この社会のありようが示されるのだと私は考えます。ノン・エリートかつ少数派であっても置いていかれることなく、一人ひとりが尊重される社会をつくっていくために、私たちが取り組むべき課題は数多くあります。