そして昨今のスキマバイト事情でもう一つ考えなければならないのが、SNSなどで言葉巧みに勧誘し、知らずしらずのうちに犯罪グループに引き込む「闇バイト」が紛れ込んでいることです。24年8月以降、闇バイト強盗事件が首都圏を中心に連続して発生しました。短期・単発・高額報酬に誘われた若者らが指示役に押し込み強盗を無理強いされるなどで、住民に暴行を加えて金品を脅し取る被害が続出。これまでに50人以上の若者が実行役として逮捕されています。
闇バイトの拡大には「匿名・流動型(トクリュウ)」と呼ばれる犯罪組織の出現に加え、若者の貧困の深刻化があると言われています。それらの関係について参考となるアンケート調査結果が25年4月、孤立するユース世代の支援を行う認定NPO法人「D×P(ディーピー)」から発表されました。調査は同団体が運営するLINE相談窓口「ユキサキチャット」の利用者を対象に実施し、13~25歳の512人から回答を得ています。
その結果は驚くべきものでした。512人のうち約1割が「(闇バイトの)経験がある・周囲に経験ある人がいる」と回答。「実際にあやしい求人を見たり、誘われた経験がある」は約4割にも達しており、若者にとって闇バイトがとても身近な存在となっていることが分かります。また、今後闇バイトに誘われた場合どうするか? との問いには、約4人に1人が「お金に困ったらやるかもしれない」と回答。窮乏を恐れる若者にとっては、闇バイトも選択肢の1つになっていることを示しています。
そして、闇バイトを検討する理由の8割以上が「生活費・奨学金返還・病院代・税金支払いなどにお金が必要なため」と回答しており、その背景に若者の経済的貧困があることは明らかです。
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冒頭にも述べたように、私がブラックバイトを定義化し、問題提起をしてから12年たちました。そして25年現在、若者の働き方も移り変わり、労働の「細切れ」化を進行させたスキマバイトの拡大、そして闇バイト(=高額報酬による犯罪への加担)の広がりという事態を生み出しました。それは12年の間に若者の貧困がより深刻化し、「法令無視の労働」や「犯罪的労働」さえも受け入れざるを得ない人が着実に増えていることを示しています。
ブラックバイトは親からの経済的支援の減少、学費の高騰、奨学金返済の負担増、雇用市場の低迷といった、若者を取り巻く経済的・社会的条件の悪化によって生じました。学生生活と両立する形で比較的気楽に働けた学生アルバイトは、10年代に入ると低賃金でより職責が重く、簡単に辞めたりシフトを変更したりすることができない過酷な労働に様変わりしました。同様に雇用市場全体でも正規雇用労働→非正規雇用労働への「置き換え」という、重大な変革がもたらされました。
ブラックバイト以降も、この「置き換え」は進んでいます。戦後、日本社会の生活保障を支えてきた「終身雇用」「年功序列型賃金」制度の中にいる正規雇用は減少する一方、教育費や住居費などの重負担状態は続いているのですから、中間層の解体と貧困層の増加が進行するのは当然です。スキマバイトや闇バイトが広がった構造的背景はここにあり、いずれもブラックバイトが生まれた社会の延長線上に登場したものと捉えるべきです。
昨今のスキマバイトや闇バイトの拡大には、「生活賃金(Living wage)=働き手が十分な生活水準を維持するのに必要な賃金額」を得るのが難しい社会で、家族や行政にも支えられず、学費支払い、奨学金返済、家賃支払いさえ困難な「若年貧困層」が影響していることは明らかです。この状況から若者を救うには、働く者の権利行使のためのワークルール教育と労働相談体制の充実、生活賃金を見据えた最低賃金の抜本的引き上げ(時給1500円以上)、「教育+住居」費の減免(=脱商品化)をセットで進めることが必要だと思います。