山本氏は自らの過去を振り返りながら、当事者の目線で若者と住居に関する報告をされました。若い頃から「児童養護施設職員になりたい」という夢があり、そのために必要な保育士の資格を取ること、養護施設を卒園したら専門学校に通うことを決めていたという同氏。しかし、18歳の卒園直前に困難に直面します。彼女を自宅へ引き取り、学費・養育費等を負担してくれるはずだった父親が突然、その一切を拒んできたのです。それでも夢をあきらめず、自立援助ホームに入所して19歳までの1年間に100万円を貯め、社会福祉系の専門学校へ進学します。
ところが学費は納められても、自力で住居を借りて生活を始めるためのお金までは残りませんでした。ホームの職員からは、生活費ができるまで待つようにと言われましたが、「自由がほしかった」彼女は家出同然にホームを出てしまったそうです。そこからは、公園で寝泊まりする生活が約3カ月続きます。事情を知って心配してくれた専門学校の友人の家を、転々と泊まり歩いたこともあったそうです。その後は自立援助ホームに戻り、職員や理解ある不動産会社の協力で低家賃の賃貸物件を探し当て、ようやく正式な手続きを経て退所しました。
自分の部屋で一人暮らしを始めてからも、孤独感との戦いや家賃の支払いなどの苦労はあったそうです。そうした困難さえも周囲の人々の支えと自身のバイタリティーで乗り越えてきた様子が語られ、若い女性が直面した困窮と住居問題の事例としてとても興味深い報告でした。
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以上に紹介した4つの報告で、現代の若者には「ハウジングプア」=「住まいの貧困」が確実に大問題となっていることがあらためて認識できました。戦後日本の生活保障は、就労によって自立する「就労主義」と、困った時には家族が手を貸す「家族主義」で支えられてきました。しかし、就労主義や家族主義では生活を保障しきれなくなっている現状が、ハウジングプアと「若者の自立の困難」という形で具体的にあらわれてきています。
「子どもの貧困」が社会問題となる中で、不登校支援、子ども食堂、子どもの居場所づくりや学習支援、そして高校教育の無償化など「18歳以下」に対する支援は近年、一定程度整備されてきました。しかし、その年齢を超える20代前後——主に19~30歳程度の若者が困った時に頼れる制度は圧倒的に不足しています。
児童養護施設を出て保育士資格を取ることを目指した山本氏は、親からの援助を得られなかったために、専門学校の学費と生活費の両方を自分の力だけで何とかしなければならなくなりました。このような困難は、成人したての若者にとっては「過大な負担」といえるでしょう。背負った負担に耐えきれず、夢や目標をあきらめてしまう若者も少なくないはずです。
岡部氏の報告からも分かるように、民間の若者支援団体が居住支援に取り組むようになったのは、公的な支援制度のはざまに置かれて苦しんでいる20代前後の人が数多く存在しており、支援の必要性が極めて高くなっているからに他なりません。そうしたことからも若者支援団体の活動は貴重であり、大きな役割を果たしているといえるでしょう。
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「住宅会議2025サマーセミナー」は、研究者、支援者、当事者それぞれの報告から、困難を抱えている若者の実態と居住支援の重要性を明らかにした点で、とても有意義な内容でした。
若者支援団体の居住支援の取り組みの重要性は明らかですが、岡部氏の調査結果にあったように「入居希望者の増加に対する受け入れ体制の不足」という課題を抱えています。そして支援団体が少ないリソースの中で、いかに苦心して若者支援に取り組んでいるかは、実際に支援現場に立つ久保氏の報告からもよく伝わってきました。
ここから見えてくる課題は「居住保障なき居住支援」という日本社会の厳しい現実です。川田教授の報告は、まさにこの点を示唆する内容でした。居住支援の取り組みをより一層活かし、「若者の自立」を十分にサポートするためには「居住保障」の視点が欠かせません。「社会住宅・非営利住宅」など低家賃住宅ストックの拡充、そして公的な住宅手当(家賃補助)制度の拡充といった「居住保障」政策の推進(具体的には「若者の『離家』」・「若者の自立」・「学び」・「子育て」を支援するための住宅費負担軽減に関する提言」)が、若者支援に強く求められているといえるでしょう。