○教育資金の調達について、流動性制約を解消し、消費のスムーズ化の機能
○ユニヴァーサル化(すべての学生が対象)
○卒業後の自分から在学時の自分への投資
○ローンの負担感の軽減やローン回避の防止のため、所得連動型返済制度を導入
○源泉徴収による返済
○オーストラリアのHECS(HIGHER EDUCATION CONTRIBUTION SCHEME)やイギリスの授業料ローンや生活費ローンや韓国やアメリカの一部の政府学資ローンで採用されている
◆◆
親負担主義からの転換という方向には共感するものの、今後の日本の教育費の方向として、私は授業料後払い制度を導入することについては賛同できません。その理由はまず、授業料後払い制度が小林さんの案とはかけ離れたものになる危険性が高いことです。それは、日本学生支援機構の貸与型奨学金制度を見れば分かります。
貸与型奨学金制度は、在学中に借りた奨学金を本人が卒業後に返済するという点で、教育費の本人負担主義という側面を備えています。しかし現行の制度は返済困難者への救済策が極めて不十分であり、返済免除となることは例外的で、本人の年収が低い場合に申請できる返済猶予期間も上限が10年とされており、それを過ぎれば無理にでも返済を開始しなければなりません。授業料後払い制度について小林さんは、「払えない人から取ることはない」と説明していましたが、現在の貸与型奨学金制度は「払えない人にも返済を強制する」ものになっています。
また、貸与型奨学金制度に導入された「所得連動返還方式」では、収入に応じて月々の返済額が小さくはなりますが、諸外国の同様の制度のように返済総額が減額されることはありません。これでは「所得連動」と言っても本人負担を減らすものとはなりません。
このように「払えない人にも返済を強制する」制度を維持している日本政府が、小林さんが提案するような「払えない人から取ることはない」制度をそっくり導入する可能性は低いでしょう。
◆◆
もう一つの理由は、授業料が今以上に値上がりして、卒業後の後払いが困難になる危険性があることです。GDPあたりの高等教育予算が先進諸国の中でも最低水準で、高等教育費に占める公的負担の割合が低い日本では、大学・短期大学・専門学校などは授業料で運営を維持することを余儀なくされています。よりよい教育を行うために、授業料値上げは止むを得ないと考えている高等教育機関も少なくありません。
しかし、親・保護者や本人が払いきれないほどの授業料設定を行えば、入学者の減少を招きその学校は立ち行かなくなります。ですから学校側が望み通りに授業料を値上げすることには、一定のブレーキがかかっているのです。そこへ授業料後払い制度が導入されれば、在学時には授業料を徴収しないのですから、ブレーキを外して授業料を引き上げる高等教育機関が出てくる可能性は高いでしょう。そうなれば現在の貸与型奨学金以上に多くの若者を苦しめ、未婚化・少子化を促進する危険性も高いと思います。
私は、親負担主義から本人負担主義への移行を目指すのではなく、親負担主義から社会負担主義への移行を目指すべきだと思います。日本の高等教育機関の高すぎる授業料は、何といっても公財政からの運営交付金や助成金等の少なさに原因があるのです。公的予算を増やすことは容易ではありませんが、その道をあきらめるべきではないと考えます。
授業料後払い制度については異論を述べましたが、小林さんの報告は日本の高等教育費の親負担主義の特徴を国際比較の中で浮き彫りにした点で、全体としてとても優れた内容でした。「高等教育費を親が負担するのが当然だ」という常識を疑うことが、日本の高等教育費のあり方を考える上で出発点となります。その点でも、「高等教育費負担軽減オンラインセミナー」のキックオフにふさわしい内容だと言えるでしょう。
高等教育費負担軽減オンラインセミナーは、この後26年3月まで毎月1回開催されます(途中参加も可)。専用フォームから申し込んでいただければ、受講料は無料で見逃し配信も閲覧できます。一人でも多くの方に受講していただき、日本の高等教育費のあり方について考えるきっかけにしていただきたいです。