搾乳作戦、あえなく陥落
母乳育児でつらいのは、乳首の傷。授乳のたびに「ッッッツーッ!」と、思わず顔をしかめる痛みが走ります。ある日の夜中、あまりにも痛いので、チッチを産んだ直後、入院中に使っていた乳頭保護器を使おうと思い立ちました。グッドアイデア! しまい込んであったのを探し出し、熱湯消毒をして、しっかり装着。「よし、これで痛くないぞ」とワクワクしながら乳頭保護器を含ませると……。ちょうど傷のところにチッチの歯茎があたって、乳頭保護器ナシのときより痛いっ!
油断していたため、思わず「痛~いっ!」と叫びながら大泣きしてしまいました。チッチじゃなく私が。そして、おっぱいを飲ませてもらえないチッチも大泣き。深夜のことで、二人の号泣を聞きつけた夫が起き出す始末です。私が泣きやむまで肩を抱いてくれ、チッチには「かんだらだめだよ!」と言い聞かせたあと、夫がこんな提案をしました。
「そんなに痛いなら搾乳してあげたら?」
それもそうだ! なんで思いつかなかったんだろう?
というわけで、さっそく搾乳してあげたのですが、器具の消毒やら、待ち切れないチッチが泣き出すやら、私のおっぱいもなんだかスッキリしないやらで、搾乳は1日だけで終了。乳首の傷は、クリームを塗ってラップをしたら、痛みもだいぶマシになって一件落着したのでした。
チッチ、初めて下痢をする
ある日、チッチのおなかの調子が悪くなりました。母乳だけなので、もともとユルユルうんちなのですが、回数が多く、ふだんは1日2~3回のところ7回も! しかも、ヨーグルトのような酸っぱいニオイが……。病院で診てもらったところ、「乳糖不耐症」と診断されました。少し前から指しゃぶりを始めていたので、それが原因でバイ菌がおなかの中に入ってしまい、乳糖を分解する酵素が分泌されなくなっていたのです。
治療のために、医師から次のような指示を受けました。まず、乳糖が含まれていない大豆製の粉ミルクを飲ませること。その際、哺乳瓶を使うと、おっぱいの吸い方を忘れてしまうことがあるので、スプーンで飲ませること。また、チッチに吸ってもらえないぶん、私のおっぱいが張ってしまうので搾乳すること。大豆ミルクを何度か飲ませ、おなかの調子がよくなったら母乳に戻してよい、とのことでした。
1日目。指示されたとおり、大豆ミルクをスプーンで飲ませたのですが、少しずつしか飲めないので、チッチは大怒り! スプーンでの授乳はあまりにも大変なので、その日の夜中は母乳を与えたところ、翌朝、下痢がぶり返してしまいました。
しかし、コップとスプーンを消毒して、大豆ミルクを作って、スプーンで飲ませて、その上搾乳という段取りを考えただけでうんざり。「チッチがおっぱいの吸い方を忘れてしまったらどうしよう」とビビる気持ちもあったのですが、2日目からは哺乳瓶で大豆ミルクを飲ませたところ……。
死んだらどうしよう……
チッチのおなかは数日でよくなり、おっぱいの吸い方を忘れることもなかったのですが、今度は私のおっぱいにトラブル発生! 慣れない搾乳のため、搾っても搾っても1時間もすればパンパンに張って、とうとう痛みまで感じるようになってしまったのです。それでもチッチの世話や家事に追われ、そうそうおっぱいを搾ってばかりいるわけにはいきません。張って痛いのを我慢していたら、一気に熱が39度以上に上がり、フラフラに。手伝いのために泊まり込んでいた義母が、ヤンゴンに帰った直後のこと。数日前から夫が風邪をひいていたので、それが移ったのだろうと判断し、その日はひたすらチッチと寝て過ごしました。
しかし、風邪にしては熱が高すぎるし、鼻水もそんなに出ない。
もしかしたら乳腺炎!?
乳腺炎をそのまま放っておくと、うみがたまって切開しなければならなくなります。切開ならまだしも、死んだらどうしよう……!
ミャンマーには、日本のような出産・子育てに関する情報誌はなく、ほとんどは母親や義母、親戚のおばちゃんからの口伝です。私の妊娠中も、義母がいろいろな注意事項を話してくれたのですが、乳腺炎もその一つ。「出産直後の授乳は、乳首が傷ついて痛くなるものだ。痛いからとおっぱいを飲ませなかった人がいた。その人は乳腺炎になって死んだので気をつけなさいよ」と聞かされていた私にとって、乳腺炎は恐怖!
「ただの風邪なのに、病院なんて行く必要ないんじゃないの?」という夫に、「おっぱいを切開することになったり、このまま死んだりしたら困るから!」と食い下がり、産婦人科に連れていってもらいました。
母乳の生産量、激減する
果たして、診断は乳腺炎でした。母乳の分泌を抑える薬をもらったのですが、その薬を飲んでも、おっぱいが張って痛い! 医師からは「搾乳するな」といわれていたものの、そのままではおっぱいが破裂しそうな勢いだったので、少し搾乳。そうやって1日半を薬でしのぎ、チッチへの授乳再開です。ところが、「チッチにおっぱいをあげられるのはとっても幸せ~」と喜んでいたのもつかの間。赤ちゃんに吸わせていないと、母乳はすぐに生産量が減り、1週間も与えずにいると出なくなってしまうとか。私の場合は3日間だけ、あげたりあげなかったりしたのですが、薬の作用もあり、生産量が激減してしまったのです。
それまでは親戚のおばちゃんから「アカリのおっぱいはパパイアくらい大きいから、よく出る」と称賛されるほどの生産量を誇っていたのに……(涙)。それから数日間は、人工ミルクを足さなければチッチが満足できず、悲しい気持ちになったのでした。
その後、乳糖不耐症についてネットで調べたところ、日本での治療法は、赤ちゃんに乳糖を分解できる酵素を飲ませて、母乳を与えるという情報をゲット。母乳を飲ませてもいいんだったら、乳腺炎にならずに済んだのにっ!!
その後、生産量は少しずつ回復して、完全母乳に復帰できたからよかったものの、ミャンマーでの治療法に振り回されて、大変な目にあってしまいました。
やっぱり完全母乳がいいね!
母乳育児については、最初の2カ月間は1回の授乳に1時間もかかり、正直、「まだ終わらないの~」と嫌になったことも。でも、乳腺炎とその後の母乳不足を経験したあとは「どんどん飲んでね!」という気持ちになりました。成長するにつれて授乳時間は短くなったし、仕事中の授乳は気分転換にもなるし、何よりも、おっぱいを飲んでいるときのチッチの顔はめっちゃかわいい! その姿を見ながら、大きくなったなぁと、しみじみする余裕も出てきました。
こうして思い出すと、まさに、おっぱいに歴史あり! 私から生まれてきて、私のおっぱいだけで大きくなったチッチは分身のよう。私のおっぱいの歴史は、チッチの成長の歴史でもあるのです。
人工ミルクは哺乳瓶の消毒や後片付けが大変だし、チッチに吸ってもらわなければ私のおっぱいコンディションも悪くなってしまいます。だから、やっぱり、完全母乳がいいね!