なぜか、新生児は“ぐるぐる巻き”
ミャンマーの人たちは、なぜか、「赤ちゃんはぐるぐる巻きにしなければならない!」という強い意識を持っています。ヤンゴンでは最近は巻かない医師もいると聞きましたが、うちの義母が例外であるはずがありません! というわけで、チッチも生まれた直後から約1カ月間、ぐるぐる巻きにされてミノムシのような格好をしていました。ミノムシスタイルの作り方は、まず上半身に普通の肌着を着せて、下には「ふんどし」のような三角形の布をはかせます。次に白い布で巻いて、最後に「フランテー」と呼ばれる布で巻いて、できあがり!
かわいいと言えばかわいいのですが、このミノムシスタイルにはいくつかの難点も。まず、おしっこやウンチをしたとき、ふんどしだけでは吸い取れないので、毎回、全部着替えさせなければなりません。加えて、最後に巻くフランテーは1カ月間、毎日洗濯しても色落ちするので、ほかのものとは一緒に洗えないやっかいなシロモノ。何よりも、手足の運動ができないことが心配だったので、チッチは昼間は肌着とふんどしだけにして、毛布をかぶせてエクササイズをさせていました。
そして約1カ月後、何がきっかけだったのか不明のまま、唐突に「明日からはずしていいよ」と義母。翌日から、即、洋服に切り替えたチッチですが、市場で働くお母さんたちは、子どもが3カ月くらいになるまでミノムシスタイルにしています。というのも、寒い季節には外気から赤ちゃんを守ってくれるし、何よりも抱っこしやすいから! 首がすわっていなくても適当に抱いて大丈夫なので、戸外で働くお母さんにとって強い味方なのです。
抱っこひもやロンジーの布で赤ちゃんを抱き、授乳しながらお客さんとやりとりする市場のお母さんたちのたくましいこと! なじみのない私には気になった点もあったけど、市場のワーキングマザーを可能にしているのは、ミノムシスタイルなのかもしれません。
タウンジーで「おむつ」ブレークか……!?
フランテーのついでに、ミャンマーの「おむつ」事情も紹介しておきましょう。使い捨てにできる紙おむつは、忙しいワーキングマザーにとって強力な助っ人ですよね。ミャンマーでも紙おむつは市販されています。しかし、1枚250チャット(25円)と人々の収入に比して高いので、ほとんど利用されていません。
というか、ミャンマーにはそもそも「おむつ」という概念がない! フランテーを卒業した赤ちゃんにはズボンだけはかせて、おもらしをしたらズボンをはき替えさせます。しかし、私は下着なしでズボンをはかせることにちょっと抵抗があったので、夜と外出時は紙おむつを利用し、普段は日本から持ってきた布おむつを使うことにしました。
布おむつを初めて見た義母は「これ、いいわね!」と感心しきり。もしかしてタウンジーでおむつがブレーク?……しませんでした。数日後には「やっぱりかわいそう。ズボンは洗えば済むから」と、おむつを脱がせる義母。事務所のスタッフたちも「暑くない? 脱がせたら?」と言ってくる始末で、おむつはミャンマー人にはウケが悪い……。
それでもベビーシッターさんはおむつを気に入ってくれたようで、きれいに手洗いしてアイロンまでかけてくれます。ミャンマーのお母さんたち、ズボンよりもおむつのほうが洗うの楽ですよ~!
農村部には保育園がない!
さて、子連れで働くお母さんがいるのは市場だけではありません。ミャンマーの女性の就業率は非常に高いというか、専業主婦のほうが珍しい存在。農家や自営業であれば、赤ちゃんがいても家業を手伝うのは当然だし、学校の先生も赤ちゃん連れで登校。授業中はほかの先生が面倒を見てくれます。公務員の産休は3カ月で、産前・産後に1カ月半ずつ取るのが基本ですが、たとえば産前1カ月、産後2カ月のように、自分で好きなようにずらすことも可能。産休中の給料はまるまる3カ月分もらえます。そして、産休直後から子連れで職場復帰をする人が多いのです。
公務員だけではなく、どこの職場でも子連れ出勤は特別なことではありません。というのも、ミャンマーには2歳以下の子どもを預かってくれる保育園がないから。3歳児以上の保育園はあるものの、全国的に整っているわけではありません。たとえば都市部には、保育料が高いハイソなところから普通の保育園までありますが、農村部には村に一つあるかないか、というのが現状です。
では、保育園のない農村部ではどうしているか? 子守は、おじいちゃんやおばあちゃん、年上の兄弟の役目。町ではあまり見かけませんが、村に行けば、お兄ちゃんやお姉ちゃんが赤ちゃんをおんぶしながら遊んでいます。
日本では保育園が不足しているために、出産後、職場復帰できない女性が多いと社会問題になっていますよね。これに対し、保育園がなければ家族や周囲で支え合って何とかするというのがミャンマー流なのです。
職場でもおっぱいタイムあり!
では、私が所属するパンデーコミュニティーのワーキングマザー事情は? アラブ諸国などイスラム教色の強い国では、女性が外に出るのを嫌っているイメージがありますよね。しかし、私が知る限り、パンデーの女性はほぼ全員働いています。パンデーは自営業が多く、子育て中であろうとなかろうと、女性たちが家業の店を切り盛りしているのが普通。さすが、「働かざる者食うべからず」の中国系です。パンデーだけではなく、インド系のイスラム教徒も働く女性は少なくありません。夫によれば、「怠け者の人以外は働くでしょう」とのこと。健全でまっとうなご意見です。
というわけで、チッチを連れて私も職場復帰! 出産前の1カ月間を含めると、ミャンマーのお母さんたちよりも長く休んだので、周囲の人たちからは「たっぷり休めていいね~」とうらやましがられました。しかし、「その間、給料もらえないんだよ」と答えると、みんなびっくり。公務員だけではなく、産休中も給料をもらえるのが当たり前なのです。まあ、私も健康保険や雇用保険から、給料の半額分くらいもらいましたけどね。
チッチを連れて出勤するためにベビーシッターさんを雇い、事務所にいる間は、チッチの世話は彼女が担当。おなかがすいたらおっぱいタイムなので、母乳育児も継続。お昼の暖かい時間帯にお風呂にも入れてもらえるので、大助かりです!
職場復帰で生活のサイクルも変わりましたが、何よりも変化したのは私の気持ち。一日中チッチと過ごしていたときは、やりたいことがあってもままならず、「早く寝てくれ~!」とばかり思っていたのに、今では、チッチと触れ合えるおっぱいタイムを楽しく感じるように! また、以前は、ご飯の支度が間に合わないときなど、夫に申し訳なく、焦ってばかりだったのが、「仕事で疲れてるし~。ちょっとくらい手抜きでもいいよね~」と、ベテラン主婦のような余裕ぶり。
時間が経つにつれて家事の段取り力もアップ! チッチが寝てから下準備をしておいて、翌朝、短時間でご飯とお弁当をさっと作るというワザを覚えました。かわいいチッチと優しい夫と3人でハッピーな家庭を築くため、これからも子連れ出勤頑張りま~す!