アミョーダーの困った買い物
結婚して半年ほど経ったある日、私が仕事から帰ると、テーブルの上に大きなビニール袋が置いてありました。中をのぞき込んでみると……蜂の幼虫!「幼虫入りハチの巣が3000チャット(300円)、ハチミツたっぷりハチの巣が8000チャット(800円)。めっちゃお買い得だった~!」
夫はこの日、仕事で空港に出かけたとのこと。「そこへ村の人が売りに来ていたんだ!」と、テンション高く満足気な夫でしたが、私はドン引き。すでに動いてはいなかったものの、蜂の幼虫なんて見るのも触るのも嫌っ!
「しかし、ハチミツはいいとして、果たして幼虫はどうやって食べるんだろう?」という疑問を頭から追いやり、ハチの巣を放置したまま夕飯の支度に取りかかることに。
その日のメニューは親子丼で、冷蔵庫から卵を取り出したところへ、夫が台所にやってきました。そして「卵に蜂の幼虫を入れると、健康にいいらしい」と言いながら、いきなり幼虫を握って卵の上から搾った~っ!!
出来上がった親子丼を前に、ぜんぜん食欲が湧かない私……。
タイ土産のイモムシの幼虫は、揚げてあってサクサクだから好きなのですが、その時は、さっき見たばかりの幼虫のウネウネが脳裏に浮かんできてどうも……。
夫「健康にいいのに、なんでそんなに嫌がるワケ?」
私「あなただって、子どものころから食べ慣れてない豚肉を食べたがらないでしょ? それと同じで、私は蜂の幼虫なんて一度も食べたことがないから食べたくないのッ!」
「……そういうこと言うから、僕もあんまり食べたくなくなってきた」
えっ? もしかして、夫も蜂の幼虫初体験?
それでも食後、大量の幼虫を握りつぶしながら、夫はこんなリクエストをしてきました。
「この搾り汁を冷凍しておいて、卵焼きやスープに入れるように」
さらにその後、私の同僚を夕食に招いたときには、こんな自慢話まで。
「健康にいいんだよ! 3000チャットで安かったんだ!」
メゲない人……。
そしてしばらくの間、卵焼きもスープも、夫と自分の分を別々に作らなければならず、新妻の私は面倒くさい日々を送ったのでした。
ミャンマー式赤アザ健康法
初めて夫の背中を見たときの衝撃は忘れられません。一面に真っ赤なアザが広がっていたのです!それは、私が「どこで虐待されたの?」とマジで尋ねたほどすごかったのですが、その真相は「おばさんにこすってもらった」。
これは中国系の人たちやミャンマー人に伝わる健康法で、ちょっとした風邪や頭痛であれば、翌朝には治っているのだとか。結婚後、夫の背中をこするのは、おばさんに代わって私の役目になっています。
その方法は、背中にマッサージオイルを塗り、ビンの底などの縁を当てて、首から下に向って「悪い血を流すイメージ」でこすります。下から上にこすると、めっちゃ怒られるので、注意しなければなりません。しばらくこすっていると赤いアザが出てくるのですが、その部分には悪い血がたまっているとかで、余計にこすってどんどん赤くします。
最初は勝手がわからず、こわごわやっていたら、「ちゃんと赤くなるようにこすらないと治らない!」と怒られる始末。そこで力いっぱいこすったら、皮膚が破れて出血!
そのとき私が握っていたのは、ビンではなく缶詰でした……ごめん!
ミャンマーの赤アザ健康法、確かに翌日、夫は元気になっているので、皆さんもぜひお試しあれ~。私はやりませんけどね。だって、ホント、痛そうなんだもん。
油の肉をやたらと買ってきたのは、妻への愛情?
長男が生まれて数カ月経ったころ、夫がやたらと「セイターヒン」を買って帰った時期がありました。「セイターヒン」はヤギ肉のおかずで、「シーピャン(油が返る)」と呼ばれる代表的なミャンマー料理。その見た目は、「油の中に肉の塊が浮いている」とよくいわれます。
ではここで、亜香里のミャンマー料理教室~!
シーピャンの作り方は、大量の油に玉ねぎやニンニクのみじん切りを入れて炒め、肉を投入したら、お水を足して煮込むだけ。味付けは塩とかウコンとか適当(笑)。湯むきしたトマトをザク切りにして加えてもOKです。
義母からこの作り方を教わったとき、「油が返ってくるまで待て」と言われたのですが、その意味がわからず「?」でした。しかし、実際に煮込んでいると水分が蒸発して、本当に油が返ってくるのです。まさにシーピャン! 油返し!
で、そのシーピャンを、やたらと夫が買ってきた時期があり……。
普段、私が作る料理は和風か中華風なので、よほどのシーピャン好きか、はたまた私の料理が気に入らないのかと気をもんでいたら、
「親戚からニーラーウー(私のこと)が痩せたと言われたんだ。子どもの世話で夜中に眠れないせいか、栄養があるものを食べてないせいじゃないかって。だから、栄養のある肉を買ってくるんだ」
私のためを思ってのことだったのね!!
当時、「栄養がある肉料理は、シーピャンくらいしかないから」と言っていた夫ですが、油たっぷりの肉料理で太らせようなんて、健康オタクの考えること? なんかちょっと違いません?
ミャンマー美人は「象歩き」
ミャンマーでは少し前まで、大き目のお尻を左右に振りながら、象みたいに歩く女性が美しいとされていました。ズバリ「象歩き」というのが美人の代名詞。女性がはくロンジーは、お尻が大き目で、太ももも太いほうがきれいなシルエットが出るので、「付け尻」というか「尻パッド」というか、そういうものも市場で売られています。
夫がシーピャンを買ってきた当時、私は授乳中で、それ以前よりも4~5キロ体重が落ちていた時期。その前は、日本では「ちょっと太め」と言われそうな体形でしたが、ミャンマーでは周囲の人たちから「ベスト!」と言われていたのです。
だから夫は親戚からあれこれ言われ、せっせとシーピャンを買ってきたのでしょう。
ただ、痩せたといってもガリガリではなく、日本だったら「少しふくよか」と言われるくらい。授乳のおかげで、せっかくいい感じにダイエットできていたのに……。
ちなみに、ミャンマーの中高年以上の世代は、今でも「女性は太っているほうがきれいだ」と言いますが、夫の世代になるとそうでもなく、細めのほうがいいという風潮になってきています。
美人と言えば、私がファッション誌を眺めていたとき、こんなことがありました。
私「このモデルかわいい! 細いし、超きれい!」
夫「いや、そんなにきれいじゃないよ。写真を修整してるから、きれいに見えるだけ」
「そんなことないでしょう?」
「あのね、僕たちの結婚式の写真も、ニーラーウーがきれいに写ってるでしょ。それと同じだから」
確かに結婚式のときは、きれいにお化粧してもらったし、写真もちょっと修整されてた……。しかもその写真を人に見せると、「旦那さんは年下ですか?」と、よく言われる。
私だけではありません。夫の弟も私と同い年なのですが、白髪が多く、いつも「兄と弟が逆に見られる」とボヤいています。
もしかして、夫が若く見られるのは健康オタクの成果なのか?
(イラスト/木元ひわこ)