一つの国の経済が安全に活動できるように保障すること。特に、エネルギーや資源、食料などについて安定的な供給を図り、経済活動や暮らしに支障が出ることがないようにすること。
企業のサプライチェーン(供給網)が世界中に広がる中で、どこかで問題が起きると必要なモノが手に入らなくなるという事態が起きている。新型コロナウイルス感染が世界的に拡大する中では、マスクが手に入らなくなったり、半導体が不足したりといったことも起きた。さらに近年、アメリカと中国の間で先端技術開発をめぐる対立が深まったことで、技術の流出を防止する措置などが企業に求められるようになった。
こうした経済安全保障の課題に対応することを掲げて、2022年5月11日に参議院本会議で「経済安全保障推進法」が成立した。その柱となるのは、重要物資のサプライチェーンの強化、AIなど先端技術の開発支援、インフラの安全確保、特許の非公開化の4つ。
「サプライチェーンの強化」としては、半導体や希少金属、医薬品などを「特定重要物資」に指定し、国が企業の調達ルートなどをチェックし、特定の国への依存が行き過ぎないようにする。「先端技術の開発支援」は人工知能(AI)などの先端技術について政府が支援する。「インフラの安全確保」については、電気、ガス、放送など14業種を審査対象として、サイバー攻撃のリスクや情報漏えいに備える。「特許の非公開化」は、核関連など軍事転用の可能性がある特許出願を非公開とする。
非公開の特許について情報を漏えいした場合に2年以下の懲役あるいは100万円以下の罰金が科せられることをはじめ、罰則規定も設けられている。
しかし、経済活動に介入する法律でありながら、その運用については138の政令、省令で定めるなど、政府の判断に事実上、白紙委任されている部分が多く、過度な介入や監視が企業を萎縮させるのではないかという不安の声がある。また、米中対立の中で経済を軍事と一体化させ統制するものだとの批判もある。
警視庁や各県警、公安調査庁にも21年末以降、経済安全保障担当の部署が置かれるようになり、産業スパイ防止の啓発などが始められている。