国家の儀式として国費で行われる葬儀のこと。明治時代から太平洋戦争の終結までは、天皇や皇族のほか、国家に大きな功労があった者や特別に勅旨があった者の死に際して国葬が行われた。一般人では岩倉具視、島津久光、伊藤博文、西園寺公望、山本五十六など12人の国葬が行われている。1926年にはそれまでの慣例を法制化する「国葬令」が勅令として制定された。国葬当日は官庁と学校は休みとなり、歌舞音曲を控え、国民は喪に服すこととされていた。1947年、日本国憲法の施行とともに「国葬令」は失効した。
1967年、吉田茂元首相の死を受け、当時の佐藤栄作政権は閣議決定で「国葬」を決定。国葬の実施日には、官庁に対して黙祷の実施や歌舞音曲を伴う行事の自粛などが要請され、学校や企業にも協力が求められた。しかしその後、野党は国葬の根拠を国会で政府に問い、政府は国葬に法的根拠がないことを認めざるを得なかった。以後、首相経験者が亡くなっても、自民党と内閣の合同葬のかたちをとるなどして、国葬が行われることはなかった。
2022年7月8日、安倍晋三元首相が銃撃されて死亡すると、同月22日、岸田文雄内閣は「故安倍晋三国葬儀」を9月27日に行うことを閣議決定した。その理由として安倍元首相が憲政史上最長の8年8カ月にわたって首相を務めたことや、国内外から多くの追悼の意が寄せられていることなどを挙げた。またその法的根拠については、内閣府設置法で「国の儀式」を内閣府の所掌事務と定めていることだとする。松野博一官房長官は、同日の記者会見でこの「国葬儀」が国民一般に喪に服することを求めるものではないと説明した。
国葬が実現すれば吉田元首相以来55年ぶりで戦後2例目となるが、法的根拠への疑問の声や、国費で行う国葬を国会審議を経ずに政府が決めたことへの批判や、追悼の強制につながるのではないかという懸念も多い。