顧客(カスタマー)や取引先などが従業員などに対して行う理不尽で悪質なクレームのこと。暴言・暴行・脅迫行為などを伴うものを指す。厚生労働省は「顧客等からのクレームのうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義している。
暴言などによって体調を崩す従業員も多く、カスハラは近年、社会問題化している。厚労省が2024年4月に発表した企業・団体を対象とした調査結果によれば、カスハラについての従業員からの相談が「増加した」と答えた企業・団体が多かった業種は、「医療・福祉」54%、「宿泊業、飲食サービス業」46%、「不動産業、物品賃貸業」43%など。
小売りや外食関係の労働組合が加盟する産別労働組合UAゼンセンが2024年6月に発表した、サービス業に従事する組合員を対象とした調査結果によれば、この2年間でカスハラの被害に遭ったことがあるという回答は46.8%に上った。最も多いのは「暴言」39.8%で、「威嚇・脅迫」14.7%、「同じ内容を繰り返すクレーム」が13.8%と続く。「権威的態度」「セクハラ」「SNS・インターネット上での誹謗中傷」もあった。そうした行為をした顧客の内訳は、性別は男性が70.6%。年齢層は「60歳代」が29.4%、「50歳代」が27.2%、「70歳代以上」が19.1%を占めていた。
また、鉄道係員への過剰なサービスの要求や暴力、自治体職員への侮辱や威圧的言動なども多いことが、国土交通省や各地の自治体の調査で報告されている。
これに対して、各企業では対策を強化している。コンビニエンスストアでは、これまで原則としてきた店員の名札への名字記載を改め、イニシャルや仮名の表示を認める方針を採用するチェーンも出てきている。JR東日本グループでは、カスハラを受けたときは対応せず、悪質と判断された場合には「警察・弁護士等のしかるべき機関に相談のうえ、厳正に対処」するなどとした方針をまとめた。
自治体でも、職員の実名や所属が分かるかたちでSNSなどに写真がアップされることを予防するため、庁舎内での撮影を原則禁止とするなど、対策を強化している。
東京都は、2024年5月にカスハラの防止条例に向けた基本方針を作成した。カスハラを「就業者に対する暴行や脅迫などの違法行為、または暴言や過度な要求などの不当で就業環境を害する行為」と定義して、それを禁じる方針を経営者団体や労働団体に示した。条例が成立すれば、都道府県では初めてとなる。