横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の社長や役員らが2020年に外国為替及び外国貿易法(外為法)違反で逮捕され、起訴されたが、そもそも犯罪が成立していないことが明らかになって公訴取り消しとなった冤罪事件。
同社は噴霧乾燥機を製造・販売していた。2017年5月頃、警視庁公安部が、生物兵器製造に転用可能な機器を経済産業省の許可を得ずに輸出したとして、外為法違反の疑いで捜査を開始。同社側は社長以下関係者が延べ291回の取り調べに応じ、この機器が生物兵器の製造に転用できる性能を持たず、規制要件に該当しないことを説明したが、20年3月、警視庁公安部は同社の社長と常務、相談役の3人を逮捕し、東京地検が起訴した。
弁護側は、この機器が規制要件に該当しないことを実験で示した報告書を証拠として提出し、保釈を請求した。しかし裁判所は検察側の「罪証隠滅の恐れがある」との主張を認め、5回にわたってこれを却下した。
勾留されていた3人のうち、相談役のAさんは20年9月に体調を崩して輸血処置を受け、外部の医療機関による緊急の治療が必要だったにもかかわらず、保釈請求が却下された。翌10月には胃に悪性腫瘍があることが分かったが、やはり請求は却下。11月に勾留執行停止で入院できたものの、すでに胃がんは末期症状で、21年2月に死亡した。
社長と常務は、6回目の請求でようやく保釈が認められ、21年2月、11カ月に及ぶ勾留から解放された。しかし保釈条件に「A氏との接触禁止」があったため、A氏の最期に立ち会うことも許されなかった。
ところが第1回公判を前にした21年7月30日、検察側が何の説明もなく「公訴の取り消し」を申し立て、公訴棄却となった。
同年9月、大川原化工機と社長らは、国と東京都に対して国家賠償を求めて提訴。公安部による不当な逮捕、詐術を用いるなどの取り調べ、検事によって行われた起訴をそれぞれ違法と主張した。
この訴えに対して、23年12月、東京地裁は逮捕、取り調べ、起訴を違法として国と都に計1億6000万円の支払いを命じる判決を出した(その後、双方とも控訴)。裁判では、現役の公安部警部補が証人として出廷し、「まあ、捏造ですね」と明言した。逮捕だけでなく、検察による起訴も違法だったとする判決は極めて異例である。
一方、Aさんの死亡について、東京拘置所の医師が適切な対処を怠ったと主張して遺族が国家賠償を求めた訴訟については、24年3月に東京地裁が請求を棄却した(遺族は控訴)。
24年3月、大川原化工機は、逮捕時の調書を故意に破棄したとして公文書毀棄と虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで公安部の捜査員2人を刑事告発し、翌4月には、嘘の報告書を作った疑いがあるとして同捜査員2人をさらに刑事告発した。