個人または少人数の有志が発行する自主的な出版物のこと。
「ZINE(ジン)」は、「ファン・マガジン(fan magazine)」の略称である「ファンジン(fanzine)」が時代とともにさらに短縮された言葉であるといわれる。
「ファン・マガジン(fan magazine)」はマガジン(magazine)に由来し、20世紀初頭からコピー機の元祖といわれるミメオグラフ(謄写版)が普及したこともあって、マガジンの愛読者らで形成されるファン・コミュニティから、創作や評論といった内容をまとめた同人誌が作られるようになる。こうした発表の場をファン・マガジン(fan magazine)と呼んだ。有名なものに、米国シカゴのSF(サイエンス・フィクション)ファンによって1930年に創刊された「The Comet」などがある。
冊子の形をとることがほとんどだが、紙一枚だけのチラシのようなものも含まれる。
商業出版や会社組織の発信の枠組みとは異なり、作り手は企画制作から流通にいたるまで、読者に届けるためのあらゆる作業を手掛ける。日本では、主に漫画同人誌との混同を避けるためにこの呼称が用いられることが少なくないが、自主的に出版物を発行するという意味では、漫画同人誌なども「ZINE(ジン)」と呼ぶことがある。
70年代からは、カラーコピー機の登場などで現代の印刷技術が普及したことにより、さらに個人が出版しやすい環境が整備された。音楽・アート・ファッションなどさまざまな分野で既存の価値観に対抗するサブカルチャーが興隆し、その発展にファンジンが貢献。しだいにジンは、権威や規範にとらわれずに、一般の人々が自由に意見を表現する媒体となる。そのなかで、例えば現在も発行を継続する「ロッキング・オン」は、当時ミニコミと呼ばれたジンから出発した。
80年代、新たな雑誌の創刊が相次いだ。ファンジンやミニコミといったジンの作り手が商業雑誌から書き手としてデビューすることも見られるようになる。
90年代には、ワープロやパソコンでのDTP(デスクトップ・パブリッシング)によって個人が発信するための技術がさらに身近に。「ファンジン」を先鋭化させたものや、媒体を紙からネットに移したウェブジンといったジン・カルチャーが発展していく。
2000年代以降、DTPのさらなる普及にくわえネット上で情報を発信することが浸透すると、今度は紙を用いたアナログメディアとしてのジンが注目を集める。ネットで集客後、対面のイベントで紙のジンを売買することや、ネットでの交流からジンを作る有志が集まるといった、ネットと紙のジンの両メディアを駆使して情報を発信していくという傾向が出てきた。出版不況が叫ばれて久しい昨今だが、文学フリマ(通称「文フリ」)のような同人誌即売会は、出店者数・一般来場者数がともに増加し、出店ブースの抽選や来場者の入場料制の導入など規模を拡大。そんななか、芥川賞作家らが参加し独自の発信を試みる文芸同人誌「ODD ZINE」なども話題を呼んだ。
SNS等で情報を発信することが一般的になった現在、情報は次から次へと無数に生まれ、かえって見過ごされてしまいやすい。だからこそ、個人の声やメッセージを手に取れる形に集約し、伝えることができるジンのようなアナログメディアの意義が再考されている。さらにそうしたジンの存在は、例えばフェミニズムといったアイデンティティ・ポリティクスによる運動と結びつき社会的マイノリティの立場に置かれる人々の思いを発信する場としても活かされている。
そして、ジン専門店や取扱店の拡大、作者と読者が交流するジンフェアの開催や、ジンをアーカイブ化するジンライブラリーの創設、参加者でジン作りを体験するワークショップが行われたりするなど、ジンを取り巻く環境や活動はさらに進展をみせている。