刑法の改正で新設され、2025年6月1日に施行された刑。それまでの「懲役刑」と「禁固刑」を廃止して一本化したもの。
1907年に刑法が制定されて以降の118年間、刑務所などでの刑務作業を義務付ける「懲役刑」と、刑務所などに拘置するが作業の義務がない「禁固刑」が続いてきた。刑務作業は処罰(懲らしめ)の意味合いがあった。これに対して、創設された「拘禁刑」では、処罰ではなく更生(立ち直り)と再犯防止を重視し、従来のように一律に刑務作業を行わせるのではなく、受刑者の特性に合わせて必要な指導プログラムが実施されることになる。
背景にあるのは再犯率の高止まりと、受刑者に占める高齢者・知的障害者などの増加。法務省によれば、2023年に刑務所に入った人のうち55%が過去にも刑務所に入っている。同じく2023年における65歳以上の割合は14.3%と過去最高を記録している。そのため、体力や認知機能の面で作業についていけない受刑者も多い。また、これまでの仕組みでは、受刑者は生活や挙動のすべてが厳格に管理されることで受け身になってしまい、出所後の社会生活やコミュニケーションに困難をきたすことがあった。
拘禁刑施行後は、更生に向けた処遇が必要と判断された受刑者については、「依存症回復」「高齢福祉」「福祉的支援(知的・発達障害)」など、それぞれの特性に応じて24の矯正処遇課程に分けられ、更生と社会復帰に必要な教育や訓練を受けることになる。
作業に当たって自ら目標を設定させたり、互いに議論させるなどして自律性を養うことや、自分について語ることで自らの状況を認識させること、社会復帰に向けて必要な技術を身に付けさせることなどが計画されている。高齢者や精神障害者に対しては、体力や認知機能の維持を目的とした指導を行い、若い受刑者に対しては学習指導を行う。ただし、特性に応じた処遇が必要ない大半の受刑者については刑務作業を中心とした処遇となるとみられる。
受刑者の社会復帰がうまくいくことは、受刑者本人にとってはもちろん、再犯者を減らすことで社会全体にとってもメリットがある。
こうした刑務所の機能転換には、刑務官の意識改革が必要になる。刑務所で繰り返されてきた刑務官による受刑者への暴力や死亡事件を受けて、すでに受刑者の人権への配慮を盛り込んだ刑事収容施設法が2006年に施行されているほか、受刑者を「さん」付けで呼んだり、号令に合わせての行進を廃止するなどの取り組みが進んでいる。
ただし、拘禁刑が求める処遇内容を実践するには、これまでよりもきめ細かい処遇が必要となり、刑務官の負担が増すことになる。もともと日本の刑務官1人当たりが担当する受刑者の数は西欧諸国の2倍以上であり、刑務官の増員が不可欠だと指摘する刑事政策の専門家もいる。