ファシズムに反対する個人や集団のこと。「アンティ(反)・ファシスト」の略。とりわけ反全体主義や反権威主義、反レイシズムの政治運動である。歴史的には1930年代にドイツやイタリア、スペインなどで展開された反ファシズム運動が文字通りの起源である。
例えば1936年のスペインでは、ドイツとイタリアのファシストたちによって援助を受けたフランコ将軍らの反乱に対して、「ファシストに死を」と呼びかけたドゥルティ旅団という民兵組織が立ち向かった。ドゥルティ旅団も軍隊ではあるものの、上下関係はなく、戦闘中であっても納得のいかない命令には服従せず、指令に従わない自由が規律に組み込まれていた。上下の指揮系統なしに自由連合という形で、小さなグループ同士がつながり、情報伝達以外の特権はなく、それぞれの戦術の多様性が生かされ、北東部のアラゴン戦線で活躍した。しかしながら、共同戦線を闘っていたはずの共産党による裏切り行為から敗北を喫して、ラテンアメリカへと散った。
現代においても、アンティファと呼ばれる運動は、集団や個人の行動として存在している。欧米では、レイシストや右翼の暴力的な襲撃からマイノリティーの住民を防衛するストリートの運動としてのアンティファが盛んである。ただし、有象無象の人々の戦術や自律的ネットワークであって、単一の組織があるわけではない。
そこに関わる人々も思想も多様である。ストリートの衝突では、ジェンダーを問わず、運動神経がよく、腕っぷしも強く、逃げ足が速く(肉体を鍛えている人が多い)、レイシストや右翼の襲撃に対してものともしない人々もいれば、逃げ場所を確保した上で襲撃されている人々を助けに向かい、野戦病院のように怪我の治療のサポートなどをする人々もいる。
アンティファの担い手は、十人から数十人程度のさまざまな小集団(アフィニティ・グループ、類縁集団)からなる。戦術的な方針だけを共有する人々もいれば、反資本主義や反環境破壊といった思想を共有する人々もいる。党派によって統率されている組織や運動もあれば、党派ではなくアフィニティ・グループによる戦術の多様性やコンポジション(グループごとに是々非々でくっついたり離れたりする)もある。恒常的にマイノリティーを助けるための福祉事業の申請補助や多様な言語のサポートをする人々もいる。
いずれにせよ、アフィニティ・グループによるアンティファ運動には、弱きを助け、権威主義志向の者たちを挫く精神の持ち主が多い。反権威主義からか、アンティファには特定のヒーロー/ヒロインはいない。それがアンティファの矜持かもしれない。
2025年には、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領が、自らの支持者である右翼活動家のチャーリー・カークが同年9月10日に暗殺された後、その責任をアンティファになすりつけ、テロ組織に指定するとの大統領令を発した。しかしながら、暗殺実行者はアンティファ のメンバーでもないことが明らかであるどころか、そもそもアンティファとは、上述してきたように、団体ではなく、いわば有象無象によるさまざまな行動のことであり、確固たる特定の組織を同定してテロ組織に仕立て上げることは不可能なのだ。