私は幼稚園児くらいの頃から家庭用コンピューターゲームが大好きでしたが、私のゲーム好きを飛躍的に加速させたのはゲームセンター(ゲーセン)でした。今回は私がゲーセンにハマっていったあたりのお話をしたいと思います。
プレーヤー名〈チョコ〉誕生の話
私が「ストリートファイターⅣ」(カプコン)というビデオゲームをするために、ゲーセンに通い始めたのは2008年の冬のことです。当時は大学3年生だったので、大学の仲間たちと4〜6人でいつも一緒に行っていました。その頃よく通っていたのは愛知県長久手市にある「ゲームファンタジアン長久手店」。授業が終わってから、“ほぼ毎日”くらいのペースでみんなでゲーセンに行って、仲間内で誰が一番強いか競い合っていました。
ゲーセンの格闘ゲームコーナーには、筐体(きょうたい)と呼ばれる大きなゲーム機が背中合わせに置かれています。
当時、ゲーセンの「ストリートファイターⅣ」はインターネットを介しての対戦機能がなかったので、同じ店舗にいる人とのみ対戦ができました。知らない人が座って対戦相手を待っているところに、自分が100円を入れて「勝負だ!」と言わんばかりに「乱入」すれば対戦が始まります。プレーヤーは筐体をはさんで向かい合う形になるので、相手の顔はディスプレイに隠れて見えません。筐体の反対側まで行けば顔を見ることができますが、なんだか恥ずかしいのであまりそれはしません。
対戦を始める際、自分のデータが登録されたカードを筐体に読み込ませてスタートすると、登録したプレーヤー名が画面のキャラクターの下に表示されるようになっています。私は飼っていたペットのうさぎ〈チョコ〉の名前でカードを作ったので、私が使うブランカの下には〈チョコ〉という登録名が表示されます。相手がデータカードを使用していれば、対戦相手の登録名も相手キャラクターの横に表示されます。
また、強さの指標になる「バトルポイント」という点数が名前の下に表示されます。それを見れば、相手の人が大体どれくらいの強さなのか分かるようになっています。基本的に対戦で勝つとそのポイントが増えて、負けると減ります。勝ち数が少ないうちはポイントは増えやすくなっていますが、勝ち数を稼いで強さのレベルが上がるにつれ増えにくくなるので、いい具合に強さの指標になるのです。
相手の顔や本名を知らなくとも、カードに登録された名前で「お、今日もこの人来てるな」と分かったり、初対戦の相手でもポイントを見れば「この人は猛者だな」と分かるようになっているので、コミュニケーションを取らなくともなんとなく同じゲーセンに来ている人のことを覚えていきます。
ゲームセンターで初めて話し掛ける
ゲーセンに通い始めた頃は、基本的に仲間同士で対戦していたのですが、だんだん慣れてくると知らない人に乱入対戦を挑むようになっていきました。毎日のようにゲーセンに通っているうちに、同じように毎日来ている常連さんの一人とよく対戦するようになりましたが、なかなか言葉を交わす機会はありませんでした。対戦するようになってから1〜2週間くらい経って、やっと仲間の一人がその人に話し掛けました。
「対戦ありがとうございました! あの場面のあの攻撃が辛いんですけど、こっちはどう対策すればいいんでしょうねぇ?」などと“ゲームの攻略”について質問してみるというのが大体、“ゲームセンターで初めて話し掛ける時のきっかけあるある”です。
まさにそのように話し掛けると、常連さんはとても優しく仲間に攻略ヒントを教えてくれていました。それがきっかけでその常連さんと私たちは仲良くなり、ゲーセンで会うと挨拶したり、雑談したりするようになりました。
その常連さんの登録カードの名前は〈イプシロンJ〉さん。「どういう意味なんだろうな~?」というプレーヤー名の人には、“名前の由来“をきっかけにして話し掛けるのもあるあるですね。
そのうち〈イプシロンJ〉さんの友達の〈さぼきのこ〉さんとも話すようになり、気が付けばお友達に。本名は知らないから、ゲーセンで会えばみんなプレーヤー名で呼び合います。「イプさん、さぼさんお疲れ様です~!」みたいな感じで呼んでいました。もちろん私も「チョコちゃん」と呼ばれていました。ゲーセン帰りの「みんなで晩ご飯食べて帰ろうか」なんて時や、電車に乗ってる時なんかに「チョコちゃんさ~」とかって話し掛けられるととても恥ずかしかったです。
まさかずっと〈チョコ〉と呼ばれることになるとは思っていなくて……。なんとなくペットの名前で登録したら、本名よりもそっちで呼ばれることが多いようになってしまったので、あの時もう少し考えて名前決めればよかったかなぁなんて思います。今はもう慣れましたけどね。
ゲーセンで過ごす時間がどんどん濃く
イプさんもさぼさんも、二人ともとても優しくていい人でした。対戦していても楽しかったので、私は仲間たちとゲーセンで過ごす時間がどんどん濃くなっていきました。そして気が付けば、私が通っていたゲームファンタジアン長久手店は夜になるとたくさん人が集まるようになり、仕事帰りのお兄さんたちと、大学生の私たちが毎晩対戦に明け暮れていました。
毎日対戦していればみんながうまくなっていくもので、すると「あの人に勝ちたいからその対策をするぞ!」と、目標とする相手を倒すために知識を増やしたり戦い方を模索したりします。そうして「ついに勝った!」となれば、今度は目標としていた相手がリベンジのために対策をしてきます。そんな積み重ねで、常連全員が面白いように成長していきました。
そうこうしていると「長久手のファンタジアンが夜盛り上がってて、強い人もいるらしいぞ」という噂がプレーヤーの間に伝わっていき、普段は別のゲーセンに通っている人が「力試しだ!」といった感じで遠征してくるようになりました。
そうしていろんなプレーヤーさんと仲間になり、いろんな人のいろんなキャラクターとも対戦するようになりました。同じキャラクターでも使う人によって全然違う動きをしたりするので、そこが対戦ゲームの味わい深いところだなと思います。