ついでといっては何ですが、アメリカのプロゲーマーは日ごろどのように稼いでいるのかスティーブさんに聞いてみたところ「ゲームだけで生活している格闘プロゲーマーはアメリカでも少ないよ」とのこと。〈Justin Wong〉選手、〈Smug〉選手、〈Punk〉選手、〈Wolfkrone〉選手といった選手はゲームだけで生活できていて、このようなトッププレーヤーは国内のテレビ番組や、「Hulu×ESL」(世界最大のeスポーツカンパニーESLと動画配信サービスHuluが共同制作する番組)にも出演したりしていて、その出演料が結構良かったりします。
なので大会で強くなって賞金を獲って、ゆくゆくはテレビやネット動画に出演する――というのが選手たちの一つの目標なのだそうです。
日本人との対戦を好む韓国ゲーマー
次は、eスポーツに関しては日本より3歩も4歩も進んでいる、韓国のゲーマーたちの練習環境をまとめてみましょう。韓国はアメリカと違って、インターネット回線がとても優れているそうです。ネット環境では日本もかなり優秀だと感じていますが、それ以上かもしれないと聞いてびっくりしました。
そんな韓国のストVプレーヤーたちの多くは、ネットカフェに集まって練習しているのだとか。それがまたとてもラッキーな環境だそうで……とある会社のゲーム好きな社長さんが趣味でネットカフェを経営していて、その店の一部を対戦練習場所として無料で使わせてもらえているんですって! そこには韓国の若手強豪プレーヤー〈Verloren〉選手や、今回、EVO Japan 2018のストリートファイターVアーケードエディション部門で優勝を果たした〈Infiltration〉選手も来て練習しているそうです。
韓国の選手たちは情報交換も密に行っていて、スマホ用の無料通話・メールアプリ「カカオトーク」でグループを作り、ストVの攻略情報をやり取りしているんです。日本の選手たちも「LINE」アプリで、リュウLINEグループ、ケンLINEグループといったようにキャラクターごとに情報交換を行っているので、そこは似ていますね。
さらにDBクッパさんによると、韓国の選手たちはネットカフェのほか自宅でもオンライン練習対戦をしていて、そのためにより接続状況のいいインターネット回線を選んだりもするのだそうです。
「韓国の主要なインターネットプロバイダーのうちの一つが海外接続に強い回線を持っているので、そこに契約を替てでも日本のプレーヤーと質のいいオンライン対戦がしたいんです」と言っていました。日本と韓国は距離が近いので、さほど通信のタイムラグなくインターネットでオンライン対戦することが可能なんですね。
韓国では皆、ゲーム機ではなくパソコンでゲームをするのが元々のスタイルなので、ストVのPC版が出たことでプレーヤー人口が増えているし、それに伴いインターネットで配信中継を見る人も増えていて、実にいい傾向なんだとか。ただ、1、2年前は「鉄拳」(ナムコ)という格闘ゲームの人気でゲームセンターがとても盛り上がっていたけれど、PC版が出たことでそっちは寂しいことになってしまっているようですが……。
「時代の移り変わりなのかもしれませんが、韓国もゲームセンターが廃れてきているというのは、やっぱり寂しいよ」とDBクッパさん。
ドミニカ共和国は仲間意識が強い
最後はドミニカ共和国の練習環境について。日本では野球などでおなじみの国ですが、メキシコ湾の南に広がるカリブ海に浮かぶ島国です。そんなドミニカ共和国の格闘ゲームプレーヤーで、公式世界王者でもある〈MenaRD〉選手がなんとなんと私と〈ももち〉が運営する「忍ism」のスタジオへ遊びに来てくれたので、一緒にご飯を食べながらインタビューすることができました。
せっかくなので練習環境だけでなく、いろいろ彼自身のことについても質問してみました。
開口一番、ドミニカ共和国で今一番人気のゲームを聞いたところ「ストリートファイターV」とのことでした。これには私も驚きました。「League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)」(Riot Games)とか「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS(プレーヤーアンノウンズ・バトルグラウンズ)」(PUBG Corporation)といった世界的に大人気で、プレーヤー人口も非常に多いゲームじゃないの?
そんなふうに問いかけると、〈MenaRD〉選手は「そういうゲームは流行ってないんだ。僕の国では格闘ゲームが人気なんだよ」と答えました。ちなみに彼が初めて挑んだ格闘ゲームは「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」(任天堂)で、お兄さんと遊んだのが最初だそうです。
それからというもの、彼は格闘ゲームを好んでプレーするようになり、ストリートファイターにはまった。きっかけは14年末にアメリカのカリフォルニア州サンフランシスコで開催された「カプコンカップ2014」決勝での、シンガポールのトッププレーヤー〈Xian〉選手と日本の〈ももち〉選手との試合。彼にとってあの試合は一番の衝撃で、以後ストリートファイターをプレーするようになったのだとか。その3年後の「カプコンカップ2017」で本人が優勝するとは、なんだか感慨深い話です。
さてその練習はというと、ドミニカ共和国もインターネット環境が良くなく、基本的にオフラインで集まって対戦するしかない。そのため練習仲間を作って、毎日集まっては練習対戦や情報交換をしているとのことでした。アメリカの〈NuckleDu〉選手のように、トレーニングモードを使うことはとてもよくあるそうです。
「オフラインでもすごく強い仲間たちと練習し合えるから、とてもいい環境だ」と〈MenaRD〉選手は言います。インターネットを使うのはもっぱら情報収集のためで、様々な選手の対戦動画を見て研究するぐらい。一番大切なのはやはり、仲間たちとの対戦だそうです。
そんな彼は「17年に獲得した賞金で自分がオーナーのプロゲーミングチームを始めるんだ! もちろんメンバーはドミニカ共和国の仲間だよ」と、チームのロゴデザインを見せながら嬉しそうに語ってくれました。
仲間たちを本当に大切に思っているんだなぁ、18歳なのにしっかりしているし、まわりの皆のことも考えていて素晴らしいなぁと思いました。
彼は今回、EVO Japan 2018参加のため貯金を使って一人で来たと言っていました。日本には一度来てみたかったそうで、それが叶って嬉しかったとも。
「日本で気に入った食べ物はラーメンといきなりステーキ!」
「もっと日本でみんなと対戦したい。でも早く帰らないと、ドミニカ共和国で僕の帰りを待っているワイフが超怖いから、帰らなきゃ」
無邪気に笑う姿からは子どもっぽさも感じられましたが、〈MenaRD〉選手は結婚していたんですね~。ところで「妻が怖いのはうちも一緒だよ」と私の夫の〈ももち〉が隣で笑って同意してたので、コラッ! と叱っておいたのは言うまでもありません。そんなこんなで、貴重な日本旅行の最終日を一緒に楽しく過ごさせて頂いた〈MenaRD〉選手、本当にどうもありがとう。