多くのスポーツがそうであるように、ゲームも日々の練習の積み重ねによって大会での勝利が得られる。頑張ればチャンピオンだって目指せる。しかし対戦者を必要とする格闘ゲームに限って言えば、まず強い相手を探し当て、対戦を申し込んで練習することが欠かせない。練習環境を整えるのも結構大変なのだ。海外の格闘ゲームプレーヤーたちはどのように練習しているのか? 彼らの強さの秘密を知るためにも、いろいろと探ってみた。
海外選手を見て疑問に思った
2018年1月26~28日の3日間、格闘ゲームの大会「EVO Japan 2018」(EVO Japan実行委員会主催)が東京都内で開催されました。会場となったのは、予選が行われた初日と2日目は池袋サンシャインシティ文化会館展示ホール(豊島区東池袋)、3日目の決勝は秋葉原UDXアキバ・スクエア(千代田区外神田)です。
このEVO Japanという大会は、アメリカで毎年夏に開催されている世界大会「Evolution Championship Series」(通称EVO)の公式日本版ということで、世界中から格闘ゲーマーが集まりました。EVO Japan実行委員会が発表したデータによれば、メーン競技タイトルのエントリー数は7119人。そのうち38%が海外からのエントリーだったそうです。
また、会場の総来場者数は1万3957人だったということで、大変多くの人々が格闘ゲームの試合に熱狂した3日間でした。海外からの参加者の中には、2週間くらい長期休暇を取って、日本観光がてら大会に参加しにきた――という人も見られました。
そんな彼らと大会中に接していて、ふと疑問に思ったことがあります。「海外のプレーヤーたちは、どうやってゲームの練習をしているのかな?」と。日本でも最近になって盛り上がり始めたeスポーツですが、もとより海外の熱狂ぶりはハンパじゃありません。恐らくプロだけでなくアマチュアゲーマーも層が厚くて、大会などに向けて練習している人も多いことでしょう。
例えば私の場合、プロになる前は毎日ゲームセンターに通い詰めて練習していました。有名店だと練習相手も多数集まってくるので、コミュニティーもできました。でも欧米ではあまりそんな話を聞きません。では一体、彼らの練習環境や練習方法は、日本人プレーヤーとどのような違いがあるのか? またそれは国によっても違うものなのでしょうか?
そこで私は「EVO Japan 2018」に参加するため来日していた海外プレーヤーたちに、普段はどのようにゲームをしているのか話を聞いてみることにしました。インタビューしたのは「ストリートファイターV(ストV)」(カプコン)のプレーヤーたちです。タイトルによっても練習方法は異なると思うので、今回はストリートファイターに絞って話を進めたいと思います。
この大会で私がじっくり話を聞けたのは、アメリカ、韓国、ドミニカ共和国の選手。アメリカの事情については、私が所属するプロチーム「エコーフォックス(Echo Fox)」(本拠地・カリフォルニア州ロサンゼルス)でマネージャーを務めていて、日本語も堪能なスティーブさん。韓国の事情については、長年格闘ゲームの大会などで通訳を務めているDBクッパさん。そしてドミニカ共和国の事情については、17年末に開催されたストV公式世界大会「カプコンカップ2017」(CAPCOM U.S.A.主催)で優勝した〈MenaRD〉選手に直接、話を聞いてみました。
アメリカでは誰かの家に集まる
まずは、主要な格闘ゲーム大会の競技タイトルが「ストリートファイターIV(ストIV)」からストVになって、練習方法が大きく変わったというアメリカの話から。
アメリカは国土が広い故にインターネット回線の質があまり良くなく、遠方にいる人とオンライン練習対戦をすることがなかなか難しいと、ストⅣの頃はよく言われていました。というのも、通信速度が遅くてタイムラグが発生してしまうので、0コンマ数秒を争う格闘ゲームでは対戦にならないのです。それは良くも悪くもストIVというゲーム自体がとても緻密な作りになっていて、プログラミングされた作動が通信速度のタイムラグに追いつけなかったことも一つの要因ではあります。
ですからストVが発売される2年前まで、アメリカの格闘ゲーマーたちは近くに住むゲーム仲間を誘い、ひと昔前の日本の子どもたちのようにモニター画面を囲んで練習対戦するのが主流でした。ゲームセンターはほとんど廃れてしまっているので、練習の度に誰かの家に集まるしかなかったそうです。
ストVではそうした通信速度に対する脆弱性が強化され、アメリカでもインターネットを使ったオンライン対戦で練習することができるようになりました。そのため現在では、遠隔地のプレーヤーたちも、それぞれの家で個別に練習するようになりました。 「誰かの家に集まって練習するという楽しみがなくなってしまうのは、寂しいことでもあります」とスティーブさんは漏らしていましたが、やはりいつでも好きな時に、自宅で練習できるのは気楽でいいそうです。
そうした中で、最近のムーブメントは“誰かの家”に代わる場所として「eSports BAR」というゲームイベント施設がアメリカ各地にでき始めたこと。そこでは毎週のように大会が開催され、勝者には少額ながら賞金も出るとか。スティーブさんによると「アメリカ人は賞金があると、みんなやる気が出る。それが少額であっても、とても嬉しいんだ」とのことです。
アメリカでは、こうした小さな大会でも大抵のプレーヤーが「自分が勝利する」という自信をもって挑むので、負けると悔しくて怒る人もいるそうで、「負けてもいい」と思いながら参加する人は少ないといいます。日本人のプレーヤーは「そんなに強くない僕なんかが大会に出てもいいの?」と口にする人が多い。でもアメリカ人は、たとえ初心者だろうと「出るからには勝つ」と思っている人が多いみたいで、そこが日本とアメリカでは少し違うとスティーブさんは感じているそうです。
アメリカのプロゲーマーについて
また、アメリカのプロゲーマーたちは、プロ同士ではあまり練習対戦をしないところも日本とは違うそう。もちろん、お互いに住んでいるところが遠い(飛行機で4時間など)といったアメリカならではの事情もあるけれど、「eSports BAR」に集まった時でさえそれほどプロ同士は対戦しないんだとか。逆に日本はプロゲーマーたちにグループ感があり、一緒に練習したり、情報共有したりしているのが意外だと言っていましたね。
ストVが発売され、自宅でも練習対戦ができるようになったことで、トレーニングモードというゲームの付属機能を使って技や動きを検証したり、反復練習したりするなど、日本人のような細かい努力を積み重ねる人も増えたそうです。その代表とも言えるのが、アメリカの若手強豪プレーヤーの一人で、17年のEVOで5位だった〈NuckleDu〉選手です。
「彼は本当にどうやって強くなったのかわからない。ゲーム生実況などの動画配信もしないし、友人と練習したなんて話も聞かず、とにかくトレーニングモードに頼っているらしいよ」とスティーブさん。逆に、近年のアメリカの絶対王者で〈NuckleDu〉選手のライバル的存在とも言われる〈Punk〉選手は、よくリアルタイムで動画配信をしながら練習してますよね。
すべての人が同じというわけでは決してありませんが、最近のアメリカのゲーマーたちはこういった傾向にあるようです。