日本初の女性プロゲーマー〈チョコ〉こと百地裕子と、その夫〈ももち〉は日本初……いや世界でも稀有な“おしどり夫婦プロゲーマー”としても知られている(ファンの間では)。今回は日本を代表するカリスマゲームプレーヤーとのなれそめから、夫婦生活の苦楽までを赤裸々にレポート。プロとして世界に挑み続ける夫の姿に思うこと、それをサポートする自身の胸のうちなどを熱く語ってみた。
一年頑張ってくれてありがとう
2017年12月8〜10日(日本時間9〜11日)、アメリカのサンフランシスコで開催された、賞金総額37万ドル超のストリートファイターV公式世界大会「カプコンカップ2017」(CAPCOM U.S.A.主催)。本大会には、この一年間に世界各国で行われた「カプコンプロツアー」大会で上位成績を残した31人と、現地最終予選の優勝者の計32人のみが出場できます。今年も世界のトッププレーヤーたちが、ストリートファイターV公式世界王者の座を懸けて戦いました。
今回、優勝したのはドミニカ共和国の〈MenaRD〉選手。18歳という若さでストリートファイター世界王者の座と、日本円で約2800万円の優勝賞金を手に入れました。何と夢のある話でしょう。まさにアメリカンドリームといったところでしょうか。
私の夫でありプロゲーマーの〈ももち〉――本名・百地祐輔も、この「カプコンカップ2017」に参加していました。彼の今年の最終成績は9位。白熱したバトルを重ねて勝ち上がっていったものの、優勝までは届かずとても悔しそうにしておりました。
ちょうどその頃、私はと言いますと東京都内の自宅にいて、インターネットの生放送で彼の試合をずっと見ていました。10日の早朝4時から始まり、終わったのは15時頃。一喜一憂しながらの11時間でした。
実は今、私たちは17年末に放映予定のNHK番組の密着取材を受けていて、私は撮影されながらクルーの人たちと一緒に見ている、といった状況でした。夫の試合を見ているだけなのに緊張して手が震えたり、喜んだり怒ったり泣いたり……とにかく感情を思いっきり表に出してしまいちょっと恥ずかしかった。〈ももち〉の試合を応援していると、気持ちがこもり過ぎていつもそうなってしまいます。こればっかりはどうしようもないですね。
ひとまず一年の集大成とも言えるこの大会が終わったということは、今シーズンがやっと一段落したことになります。この連載を書いている今しがた、彼がアメリカから帰宅しました。
今回の大会では結果は振るわなかったものの、大舞台の中で緊張をものともせず、得意とする確認プレー(約0.28秒の間に攻撃が当たったかどうかを判断し、次の大技へとつなぐ)を何度も成功させ、とても彼らしさの溢れる、そして大会を観戦している視聴者の皆さんを感動させるような試合をたくさん魅せてくれました。なので、素直に「一年頑張ってくれてありがとう。来年も一緒に頑張りましょう」という言葉が出てきました。
夫の試合がすべて終わった後、「この人を応援していて本当によかった。これからも私はこの人を応援できる」と確信できたんですよね。
そんな私たち夫婦ですが、〈ももち〉が初めて公式世界大会で優勝したのが14年12月14日の「カプコンカップ2014」。そこから私たちのプロゲーマー活動が軌道に乗り始めました。そして私たちが結婚を決めたのも、2年前のカプコンカップが終わった直後の15年12月8日でした。思えば私たちはカプコンカップを一つの区切りとしてこれまで成長してきたなぁ……そんなことを思い返しながら、夫の帰国を待っていたので、今日は夫〈ももち〉について書いてみようと思います。
「カプコンカップ2017」で〈ウメハラ〉こと梅原大吾と対戦する〈ももち〉(右)
第一印象は「静かな人だなぁ」
私が百地祐輔という人物を初めて見たのは、09年1月31日でした。私がストリートファイターIVにハマり、毎日のように地元のゲームセンターへ練習しに行っていた頃です。大学は卒業間近、就職内定先の研修がもうすぐ始まる――といった時期でもありました。
その日彼は、私がなじみのゲームセンターで企画したストリートファイターIV大会に参戦してくれたのです。愛知県長久手市という、名古屋駅から少し離れた町だったにもかかわらず、仲間たちと一緒に来てくれていました。私たちの間では、すでにストリートファイターの強豪プレーヤーとして知られていたので、「あれが〈ももち〉さんかー」とは思いました。でも話しかけたりはしませんでした。昔の日記を読み返しても、何とも思っていなかったようです(笑)。第一印象は、「静かな人だなぁ」でした。
以来、何度かゲームセンターで遭遇し、対戦してもらったりしたようですが、やっぱり特に会話はなかったです。普通に対戦し、そしてボコボコに倒されました。彼はいつも黙々と対戦していて、他のプレーヤーたちと話すこともあまりないように見えました。常に真剣な表情で笑顔を見せることもないので、寡黙な人という印象は増す一方でしたね。
そんな〈ももち〉に私が興味を持ったのは、09年3月11日。名古屋市大須のゲームセンター「ゲームスカイ」でたっぷり練習対戦を行い、閉店後に集まったゲーマーみんなで晩ご飯を食べに行った時です。大人数でレストランに入ったので4人ずつに分かれて座ったのですが、たまたま私が隣に座ることになりました。彼の前には「ゲームスカイ」の店員が座り、その横には……忘れました! 忘れましたが、食事中はその3人がゲームに関する話で盛り上がり、私はあまり口を挟まず楽しく聞いていました。
その時に「あれ? 〈ももち〉さんって結構話すし、笑うんだなぁ」と、びっくりしたのです。それまでゲームセンターで見ていた彼は、とにかくクールで物静かだったので、物腰柔らかな話し方が意外過ぎて、それがとても印象に残っています。ただ、興味を持ったとはいえ急に何か進展するわけでもなく、今まで通り週に何度かゲームセンターで見かけては対戦し、挨拶をする程度という日々が続きました。
付き合い始める時は彼から……
私たちの仲が深まったのは、後日ゲームセンターで話す機会ができた折、私が「今度一緒にご飯に行きましょう」と彼を誘ってからです。なので、きっかけは私からですね。そして数日後、仕事が終わってから晩ご飯を一緒に食べに行きました。その時は、私がインタビュアーになったかのように、彼にいろいろ質問したのを覚えています。
「なぜゲームを始めたんですか?」
「一番好きな格闘ゲームは何ですか?」
「印象に残っている大会は何ですか?」
なんて矢継ぎ早に質問する私に、丁寧かつ楽しそうに〈ももち〉は一つひとつ答えてくれました。「闘劇(とうげき)」という格闘ゲームの全国大会の話を、長々と聞いた記憶があります。私は、自分がまだ知らない格闘ゲーム界の知識を吸収するのがとにかく楽しくて仕方なかったし、とても楽しそうに饒舌に話す姿が好印象で、それから私は彼に好意を寄せるようになりました。
この頃の私は、寝ても覚めても頭の中がゲームだらけで、何だか思い返すと恥ずかしくなります。
それからはゲームセンターで会ったら話すようになり、だんだん仲良くなりました。交際を始める時は、彼のほうから「付き合いますか!」と言ってくれましたね。……っていうのを皆さんにお話しするのは恥ずかしいですね。何だか顔が熱くなってきたので、出会い編はこれくらいにしましょう。