世の中のゲーマーには2種類あって、孤独を愛するためにひたすらゲームに熱中する人もいれば、ゲームを通じて他人との交流を求める人もいる。ゲーマーの社交場ともいえるゲームセンター育ちの〈チョコブランカ〉こと百地裕子は、どちらかといえば後者のタイプ。「居場所がある」ことって生きていく上でとても重要だと思う……と話す彼女が、ゲームをプレーする中で偶然出会ったプレーヤーたちの熱きコミュニティーから得たものとは?
グランツーリスモ仲間に入ったよ
今年(2018年)6月9日、「グランツーリスモSPORT」というレースゲームの大会「Roots 〜eスポーツ最速決定戦!!」(DKアソシエイション主催)が開催されました。「グランツーリスモSPORT」はポリフォニー・デジタルが制作し、ソニー・インタラクティブエンタテインメントから17年10月19日に発売されたPlayStation 4(ソニー・コンピュータエンタテインメント)用のゲームソフトです。私は今回、その大会にゲスト解説者として参加してきました。
国内開催のレースゲーム大会としては非常に珍しい賞金制の大会だったので、各地からトッププレーヤーたちが遠征してきており、非常にレベルの高いパフォーマンスが繰り広げられました。スペシャルアンバサダーとしてゲスト出演していた“ドリキン”こと元レーシングドライバーの土屋圭市さんも「これは面白い! 今のゲームは凄いなぁ」と絶賛されていたほどで、プレ大会としての開催ではありましたが、今後の展開が大いに期待されます。
さて今回は何をお話ししたいかといいますとね、ゲームと居場所についてです。そのきっかけは「Roots 〜eスポーツ最速決定戦!!」で優勝した、〈カルソニック〉こと高橋くんという20代の子でした。大会後の打ち上げパーティーの席で、彼が「優勝できて本当に嬉しい。僕はこのゲームが絶対盛り上がってほしいと思っているんです。やっていて本当によかったと思うから、このゲームを盛り上げていきたい。みんなとこうやって知り合えて本当に幸せです!」と、若干涙ぐみながら私に話してくれたんですよ。お酒の力を少し借りて出たであろう彼の熱い言葉を、レースゲームではまだ新参者の私なんぞに聞かせてくれたんですよ。
これはとても嬉しいことでした。「グランツーリスモSPORT」のプレーヤーたちのコミュニティーに、受け入れてもらえたような気がしたんです。
私の居場所が一つ増えた瞬間
私たちプロゲーマーは新しいゲームをやり始めると、職業柄「“どうせ仕事で”やっているんでしょ?」と思われがちです。実際は仕事がきっかけで始めるゲームは少なくて、好きでやっていたら声を掛けてもらえて仕事になった、という形が多いです。ですが、仕事に関係なく好きでやっていても、どうしても「仕事のため」と思われてしまいます。
それは仕方がないことだと思いますが、やっぱり好きでやっている以上、そのゲームのプレーヤーたちに受け入れてもらいたいなぁと思います。なぜなら、そのゲームが好きなプレーヤーたちと一緒に楽しみたいからです。
「グランツーリスモ」シリーズは、元々私が子どもの頃に遊んでいたゲームで、昨年に新作が出たのでまたプレーし始めました。子どもの頃は弟と遊ぶか、一人で遊ぶかだけだったので、「グランツーリスモ」コミュニティーの人たちと交流を始めたのは新作の発売前後からでした。「頭文字D ARCADE STAGE Zero」(セガ・インタラクティブ)のゲームコミュニティーもそうですが、レースゲームをがっつり遊んでいるプレーヤーは若い子が多いです。私より一回りも若い10代後半の子たちがたくさんとか、そういうレベル。なので、なかなかコミュニティーになじみづらかったりします。
彼らは「言いたいことも言えないこんな世の中じゃー」と振っても、「♪ポイズン」とリアクションが返ってこない世代なのですよ。「初めて遊んだ家庭用ゲーム機はNINTENDO 64です」とか「白黒のゲームボーイ? 何それ!?」とか、そういう世代なのです。そりゃーモノクロ画面のゲームボーイで遊び回っていた私とは、世代が違いすぎて絡みづらいですよね。
それがですね、先日のその大会の後、プレーヤーたちの打ち上げパーティーに同席させてもらえたんです。20名くらい参加の大お疲れ会。あのレースはどうだったとか、みんなが話し合っている場に私も入れてもらえました。もちろん私が最年長。でもそんなことは関係なく車の話をしたり、大会のよかったところ、反省点を一緒に話したり……。一プレーヤーとしてその場に交じらせてもらえたことにとても感謝していたのに、さらには熱い思いまで聞かせてもらえて。なんと嬉しいことでしょう。
私の居場所が一つ、増えた瞬間でした。
私はここにいてもいいですか?
私が今のこの世界に入り浸るきっかけになったのは、やはりゲームセンターという居場所があったからです。「ストリートファイターIV」(カプコン)目あてに足を運ぶようになり、ゲームセンターという居場所の魅力を知りました。通い始めた頃は、周りの人は全然見知らぬ“赤の他人”だらけだったけど、対戦しているうちに挨拶だけはするようになって、そのうちゲームの攻略について話すようになったりして、仲間が増えました。同じゲームが好きな仲間たちと過ごすゲームセンターは、とても居心地のいい居場所になったのでした。
学校や仕事の人間関係でうまくいかなくて、悩んだり落ち込んだりしていても、ゲームセンターに行けばいつもとはまた別の居場所があって。プレーヤーネームは知っているけど本名は知らなかったりするのがゲームセンターでの人付き合い“あるある”なのですが、そんな距離感だからこそ気楽だったりするんですよね。ちょっとした人生のシェルターにもなってくれる、そんな居場所が私は大好きでした。
その後、「ストリートファイター」はやらなくなりましたが、「頭文字D」を練習しに行くようになり、私はまた新たな居場所を与えてもらいました。
走れるコースが増えれば増えるほど、徐々に「頭文字D」プレーヤーたちにも受け入れてもらえるようになりました。ゲームセンターでプレーヤーたちと立ち話に花を咲かせたり、今年3月に開催された全国大会の後には、広島から来ていた頭文字Dプレーヤーたちの打ち上げパーティーに参加させてもらったりして。これまた年齢が10歳近く離れているわけですが、普通に会話してくれるし、一プレーヤーとして接してくれてゲームの話題で一緒に盛り上がったりして。
「ここにもいていいよ」と言ってもらえているようで、嬉しかったです。
今度は誰かの居場所を作る番
私は「居場所がある」ことって、生きていく上でとても重要なことだと思います。ここにいてもいいんだって思える場所、好きなものが同じ仲間がいる居場所があるって、幸せなことじゃないですか。人付き合いは下手だし、人見知りもしてしまう私ですが、やっぱり一人ぼっちでは生きていけないのでね。
だから私は、誰かの居場所を作るきっかけになれたら嬉しいなぁと思って、オフラインイベントを企画したんです。